THE FRAGILE: DEVIATIONS 1 / NINE INCH NAILS

THE FRAGILE: DEVIATIONS 1 / NINE INCH NAILS
今尚本当に心底好きだし、これ以上圧倒された経験は無いぐらいの音楽が『THE FRAGILE』なので、新曲EPそっちのけで聴いてる。プレオーダー対象に先行配信されたハイレゾ音源のやつ。本作はただのヴォーカルオフ版+アウトテイクで無く、ミックスも微妙に変えているので、17年経って新しく得られる知見が沢山あって本当に耳が喜ばしい。

 

内容はInstrumentalとAlternateで本編の流れを踏襲しつつ、未発表トラックと素材再構築に依る新曲を合間に挟むことで本編からの逸脱=deviationが図られている。
Instrumentalは基本的に12インチ版をベースとしたヴォーカルオフトラックで、「The Day The World Went Away (Quiet)」と「Ripe (with Decay)」以外は既にApple Musicでリリースしていた『THE FRAGILE Instrumental』と同一内容。ただインストと銘打ってはいても「Somewhat Damaged」「10 Miles High / Hello, Everything Is Not OK」「Ripe (with Decay)」の3曲は本編とは随所が違っていて、実質的にAlternateだと言っていい。
Alternateは文字通りミックスや音作り、構成が微妙に異なるヴァージョン。特に目立つ相違点としては、「The Way Out Is Through」「Complication」で終盤が長かったり、12インチより若干短い「La Mer」の終盤でカウンターとチェロの低域が抜け、ピアノの左手がオクターヴ上がっていたり、「Pilgrimage」「The Mark Has Been Made」の後半が本編と著しく違う等の差異が認められる。「Just Like You Imagined」は最初何処が違うのか判らなかったが、レゾナンスとハイパスをキツめに掛けたノイズがドラムのブレイクが入る1:38辺りに入っておらず、最後の部分では歪み処理がされていなかった。
未発表トラックはInstrumental扱いでしれっと含まれている、「The March」「Not What It Seems Like」「Was It Worth It?」「Can I Stay Here?」の4曲。トラックとしては完成されているのでヴォーカルは本来存在しただろうと思われる。ヴォーカル録りを行った後か、それともその前段階でトラックリストから外されたのかは不明。「Was It Worth It?」は配置的に「The Big Come Down」か「Underneath It All」のポジションであったものと推察。「The March」に至っては、なんとソウル・ウィリアムズ『The Inevitable Rise and Liberation of Niggy Tardust!』収録の「Skin of a Drum」にほぼそのまま転用されていた事実がこの度発覚。当時でも当時らしくないトラックだとは一寸感じていたが、まさかの。
他、新曲6曲に関してはあくまで当時の使用済トラックや未使用素材を再利用して作られたものになるので、あくまでインタールードの位置付けであって財宝発掘的な趣は希薄。リズムの構築からしてアティカス・ロスの面影が強く、寧ろ現在の匂いを感じてしまうことに因って当時のパッケージングに混入した異物感が若干生じる。「One Way To Get There」に関しては、曾てbittorrentで意図的にリークさせたDVD版『closure』の追加スタジオ映像として収録されていた「Sex Dwarf」(アダム・アントのカヴァー)に近く、その点では面白い。

 

NINの音楽的な功績としてはノイズ/インダストリアルのようなドマイナー且つ病的なジャンルをUSオルタナ文脈で一般化させたことに尽きるのだけど、もう一つ、ロックに対してギタープレイやリフよりも音作りの徹底に依って驚異的な威力を引き出したことを挙げたい。技巧も複雑さも無く弾いている単純なパートを頭おかしいレベルでいじり倒した結果の異常な分厚さ。
勿論裏にはフラッドやアラン・モウルダー(90年代オルタナ以降で音がやたら厚かったら大概この人達の仕業だろ的なプロデューサー)が居て、フラッドがジザメリを経て『broken』で、モウルダーがMBVを経て『the downward spiral』にコミットしたというCreation経由のキャリアも要因としてはとても大きい。
が、その莫迦みたいに分厚い音をシューゲイザーのように轟音として押し切ったりはせず、展開の要となる部分で配置したり全体の音的なバランスを調える為のテクスチャーにするなど、音楽そのものの演出の効果として使うことが出来る発想は他のアーティストでは代替出来ない特質と言っていいと思ってる。例えば「The Fragile」「The Day The World Went Away」「Just Like You Imagined」とか、何れもシンプルなコード進行の反復で作られている曲にも拘わらずダイナミックに展開されていくのはその音作りに因るものであるし、音はエグめに聴こえつつも反面全体として端正、といった節は配置とバランスの良さに尽きる。

構成的な面に付随して、ロックだけどサウンドトラック的な節がある、という点に関しても併せて指摘するべきなのだけど、近年本当にサウンドトラック作る人になってアカデミー賞とかグラミー賞を獲っちゃったぐらいなので特に今更書くまでもなかった。『The Social Network』と『Girl with a Dragon Tattoo』。元々クラシックピアノ育ちだったのとピンクフロイド好きが高じた要素かと。

ということで、『THE FRAGILE: DEVIATIONS 1』素晴らしい。今年最も歓喜したリリース。しかも年末とか最高かよ。

 

本作は限定盤ということもあり、目下nin.comでしかオーダー出来ない。
追記:2016/12/23正式リリースに対して、肝心のLPx4は2017/7中旬に届いた。超うける。
store.nin.com

元々『THE FRAGILE』の未使用曲であることが判明した「Skin of a Drum」

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