B’Boom: Live In Argentina 1994 / King Crimson

何故今更これなのか、と言えば、単に連休の暇にかまけて公演日当てクイズをやっていたからだった。とても無駄な時間の使い方であることは重々承知している。この『B'Boom』収録の「Red」が最も自分の好みの音であり、出自が知りたくなったことが先立っていたのだが、しかし『THRaKaTTaK』は随分前から検証されていたのに『B'Boom』では恐らくされてはおらず、何処にも情報が見当たらなかったので、もののついでに他のトラックも芋蔓式にずるずる調べていった結果が本件に至っている。個人的にはそれなりに意義はあったと思っている。それでもとても無駄な時間の使い方であることには変わりないが。

 

101 VROOOM
1994.10.15 2nd Show, Teatro Broadway, Buenos Aires

102 Frame By Frame
1994.10.14 Teatro Broadway, Buenos Aires

103 Sex Sleep Eat Drink Dream
1994.10.14 Teatro Broadway, Buenos Aires

104 Red
1994.10.16 Teatro Broadway, Buenos Aires

105 One Time
1994.10.14 Teatro Broadway, Buenos Aires

106 B'Boom
1994.10.15 1st Show, Teatro Broadway, Buenos Aires

107 THRAK
1994.10.15 1st Show, Teatro Broadway, Buenos Aires

108 Improv:Two Sticks
1994.10.15 2nd Show, Teatro Broadway, Buenos Aires

109 Elephant Talk
1994.10.15 2nd Show, Teatro Broadway, Buenos Aires

110 Indiscipline
1994.10.15 1st Show, Teatro Broadway, Buenos Aires

201 VROOOM VROOOM
1994.10.15 2nd Show, Teatro Broadway, Buenos Aires

202 Matte Kudasai
1994.10.15 2nd Show, Teatro Broadway, Buenos Aires

203 The Talking Drum
1994.10.08 Teatro Broadway, Buenos Aires ※

204 Larks' Tongues In Aspic Part II
1994.10.14 Teatro Broadway, Buenos Aires

205 Heartbeat
1994.10.10 Teatro De Las Americas, Cordoba

206 Sleepless
1994.10.15 2nd Show, Teatro Broadway, Buenos Aires

207 People
1994.10.15 1st Show, Teatro Broadway, Buenos Aires

208 B'Boom (reprise)
1994.10.15 2nd Show, Teatro Broadway, Buenos Aires ※

209 THRAK
1994.10.15 2nd Show, Teatro Broadway, Buenos Aires ※

 

DGMLiveで比較した程度であり、またミックスが違うので一部確証を得られないトラックはあるが(※が付いている曲)、ざっと確認した限りでは上記の通りだ。1994/10/6~10/16のブエノスアイレス・Theatro Broadway公演からの音源抜粋だというフリップおよびシングルトンに依るライナーノーツに相違は無い。但し、1994年10月15日の2回のショウに集中している。

DGMLiveでこの時期の公演の大部分が販売されている以上、今時『B'Boom』の存在価値は一見して希薄なのだが、しかしこの盤で無ければ如何無い評価点が幾つかある。
先ず第一に粗く硬いミックスにしている点だ。サウンドボードからのDATソースなので元々コンディションの良い音源である筈なのだが、キング・クリムゾンにしては珍しく、ギターを当時のオルタナ/グランジに寄せた音に変えてしまっていて、特にディストーションを噛ませた音だと他のパートを埋めかねないぐらい矢鱈粗くて厚い。ディストーションを噛ませていなくても、高域を引き上げている独特のミックスだということもあって金属的な質感が強い。その上ドラム含めてコンプでバッツバツに圧縮させているものだから、「Coda:Marine 475」や「Frame By Frame」ですら鈍い銀色の光沢を連想する硬質な楽曲になっている。『THRAK』のジャケットの様な金属感をその儘音に変換したような印象すらある。全体的に金属質な音でありつつ実際メタルパーカッションも多用しているのでこれはインダストリアルだ、とフリップやシングルトンに言われたら、まあそうですねとうっかり納得してしまいそうではある。
ともあれキング・クリムゾンでこんな音作りを施した音源は他に無い。これならカートの発言に感化されたファンが聴いても成程と膝を打ったかも知れない。

そして第二にライヴパフォーマンスのクオリティである。細部の演奏やエフェクトの切替に粗があるのでこの時期の完成度は高くない、といった指摘はマニアからは当時から少なからずありそうだが(実際あるにはある)、逆に言えばこの時期でその程度しかないのだ。ダブルトリオとして初のライヴを開始した9/28~10/2のPrix D'ami公演では各人の明白なミスタッチが目立ち、全体に亙って地に足の着かないもやもやしたパフォーマンスだった。初日の9/28の音源を過去に買って聴いたのだが、「VROOOM」に至ってはオープニングとアンコールの二回とも覚束無いもっさりした演奏だし、クリムゾンのレパートリーでは比較的無難に演奏出来そうな「Heartbeat」ですらばらついたアンサンブルだったので結構意外な思いを抱いたものだった(楽曲そのものの面白さの欠如からか結局結実しなかった通称「Funky Jam」を演奏していたりもするので、当時のバンドの様相を知る意味では価値ある音源とは言える)。
しかしそんな状態であったにも拘わらず、この『B'Boom』に至る僅か一週間そこらで、ライヴ音源としてオフィシャルリリースするに遜色無いこのクオリティにまで引き上げられている訳だ。演奏に就てどうこう言及するなら、一枚のライヴ盤としてだけの観点に留まらず、近辺の時系列も含めた上で検討すべきだろう。いやまあ確かにそれならなんで「Sleepless」はこのテイクにしたのかという疑問は私も持ってはいるのだが。

それと、アートワークも私は好きだ。件のダブルトリオのロゴを使い、オフィシャルのテイストから著しくかけ離れたフォントと素人臭い加工を交えてしっかり胡散臭さを加えた質感には、例えば西新宿の古い雑居ビルの一室の棚に収められていても遜色の無いイリーガルな雰囲気が大変に良く醸し出されている。ブートレグの特質をよく理解した盤だと今でも変わらず私は評価している。

https://www.dgmlive.com/tour-dates/1994

 

 

 

『B'Boom』の音源がさっぱり見当たらないので、DVD2枚組のKCCC『Live in Argentina 1994』の「THRAK」。これは1994/10/8のTheatro Broadway公演。まだ「THRAK」のインプロ部分を一定のリズムで刻むことを主体としていた初期ならではの演奏。

 

 

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