KESTREL / KESTREL
今年はまだ(自分の中で未知の)新しい音楽を聴けてない。意識しないと安易に耳慣れたものばかり繰り返し聴くようになってしまうからよろしくない。いやそれはそれで別に良いんだけど、それしかなくなるという事態がねえ。
昨年の個人的大当たりはKESTREL。プログレ好きでもマニアックな愛好家しか知らないと未だに言われたりする1975年のセルフタイトル。確かに当時は評価の俎上に上がらなかったらしい。1972年のレーベルオファーからリリース迄に三年もかかったことでレーベルが宣伝展開を蔑ろにした事実もあり、結局これ一枚しか発表されずに解散の憂き目に遇った。
ただ、評価されなかった、というのは評価の低さとは異なる。当時は食傷気味であったプログレの反動としてパンクが台頭してきた時期にあった為、そちらの勢いに呑まれたが故に関心を持たれなかったのが実情だろうと言える。
翻って、楽曲の出来やまとまりが随分と自然過ぎて余り仔細に顧みられなかった、という要因もあるのではないかと思った。
テンポチェンジや意外な転調を突っ込んでくる辺りはプログレでありつつも、如何にもな風情の技巧的なフレーズは少なく、変拍子にしても楽曲構造の大枠に応じて変わる程度で、寧ろフレーズやリフを3拍子や4拍子の上にポリリズム的に被せる方針で終始しているので王道プログレやカンタベリー系のような難解さは無い(楽曲構造的なプログレという点ではフロイドやジェネシスに近い)。他方、クリス・スクワイア的なベースに対して過剰な主張をしないドラム、リード以外のギターに関してサスティンをざっくり削って全体的なサウンドを硬めに仕上げているのも、まとまりの良さの一因と言っていい。そしてこの、「The Acrobat」に特に顕著なAORの深みを湛えたコードワーク、トム・ノウルズに依る耳馴染みの良い整ったメロディーライン。当時のブリティッシュ・ポップに余裕で比肩するのは相違無い。
もう一つの特長は愛好家の誰しもが挙げる通り、多用されたメロトロン。随所でコーラスの厚みを加えた「The Acrobat」、冒頭のマイナー進行からBメロでメジャーに変えてどんどん盛り上げ、最後のメロトロンで最高潮に達する「In The War」、後半丸々メロトロン中心のインストに変わる「August Carol」など、リバーブ効かせまくりなメロトロンで大袈裟に盛り上げる壮大さ。尤もこれに関してはプログレ好きだからこそハマる範疇ではあるが。
そういう訳で、完成度は高く実に素晴らしく、凡作と捨て置くには余りに難い作品である。完成度故の違和感の無さ加減故に、本来フォーカスされるべきものが悉くスルーされ、知る人ぞ知るという状態になってしまったのではないか……というのは些か誇張気味なきらいもあるけども、挙げた諸般の理由の他に、評価がされなかった理由の推察が出来ないのでそう言わざるを得ない。ついでに言うなら「Part Of The Machine」が最近までずっと未発表だったとか不思議でしょうがない。
ケストレルの中心メンバーであったデイヴ・ブラックはその後、Spiders From Mars(但しボウイがZiggy Stardustを終えた後で、ミック・ロンソンも居ない)に加入し、ここでもアルバム一枚のみ出して脱退。自らヴォーカルとして立ったGoldieで1978年にシングルトップチャート入り(とても…歌謡曲です…)。1980年の解散後はサイドプロジェクトをやりつつ北東イングランドでローカルな作曲家として過ごし、2015年に列車事故で逝去。
ケストレルのCDは元々長い年月のスパンでリマスター/リイシューされてはいるものの、内容に問題があったり、プレスされる絶対数が少なかったりと幾つかのマイナス要因が付きまとい、入手しにくい物だったらしい。昨年になって、日本限定で出た未発表付リマスター盤をベースに海外でもリイシューされたので、入手は大分容易になった。尤も今となってはiTMSで済む話だけど。
ケストレルはもっと世界中に再評価されていい。奇跡のような一枚。
(とても…歌謡曲です…)と上述した、件のヒット曲。何だろうな、この何処から切っても明石家さんまのような感じは。
https://youtu.be/s6cjjOUF-n8