THE GOSPEL / PIG

THE GOSPEL / PIG
1999年にリリースされた『Genuine American Monster』以降、レイモンド・ワッツは己の特性を悉く捨てていってしまった。
曾てノイバウテンのサブエンジニアとして名を連ね、初期のKMFDMのメンバーとしてスタジオエンジニアリングの基礎を伝え、師匠フィータス=ジム・サールウェルのSteroid Maximusに関わり、藤井麻輝・今井寿のSCHAFTに一方ならぬコミットをした「インダストリアルとしてのPIG」は最早完全に死んでいる。多少大袈裟に喩えるなら、90年代にインダストリアルが脚光を浴びつつもオルタナティヴの一要素として吸収されてしまい、アンダーグラウンドに於けるマジョリティとしてすら残らなかった状況の体現者であるかのように(諸説あるとは思うが、少なくとも名を連ねるのは80~90年代に活躍したアーティスト以外には居ない)。『Sinsation』や『wrecked』での神がかった業はもう望むべくも無く、フィータス譲りのオケ&ラテン音楽からのサンプリング/マッシュアップすら繰り出さなくなって久しい。実にPIGならではのインダストリアルなサウンドを象徴していた、あの執拗な金属音にあのライン録りギターの質感、それらすらも失われた。
己の際立った特長の全てを捨ててまでの変化とは如何なるものであったかと言えば、バンド形態にした『pigmata(元pigmatyr)』のように、普通にキャッチーなロックであったり、ベースをリードとするニュー・オーダーそのまんまな楽曲であったりと、確かにレイモンドのメロディセンスが純粋に強調されるようになったとは言え、アーティストとして言えばそういうのは基礎的な箇所であって、前向きな変化と表現するには余りに乏しいものだった。SCHAFTの拡大版かと期待されたSCHWEINに関しても、レイモンドの楽曲に関してはとてもダルく、お家芸と化した過去曲使い回しも目立ち、ユニットに何の意味があるのかさっぱり判らない有様ですらあった。

なので、『The Swining』以来のファンとしては失望して久しい。そのダルさに失望し、やがて逆にそれが自分の中でクセとなってしまい、思い出したようにリリースされる楽曲やリミックスがダルかったりすると寧ろ安心する、という謎な楽しみ方をするに至るぐらいには久しい(結局好きなんかよ)。だがもうレイモンドも若くはない。全裸が好き過ぎて『wrecked』や内縁の妻SOW(故アナ・ワイルドスミス)との共作『Je m'aime』のアーティスト写真のような倅のポロリで耳目を惹いたりは出来ない年齢だ。いやそんなことで耳目を云々してはおらず、本当にうっかりポロリ状態のまま使ってしまったのが実情だと思うし、そもそも誰からも気にされてない訳だが。

 

そして近年、MC Lord Of The Flies(Marc Heal)やPrimitive Raceなど何人かとのコラボEPを経て、突如、METROPOLIS RECORDSのbandcampで先行配信されたシングル『The Diamond Sinners』。実に8年振りの新譜。何時ものダルさは曲調と相俟って或る種の荘厳さに切り替わっていた。本来レイモンドの声は(ライヴの時みたいに雑に適当に歌っていなければ)単なるゴス声に留まらない威容が備わっている。そうか、まだ地の底から唸るようなそのゴス声は健在ではないか、ということで期待が膨らんだ。
間を置かずにリリースされた本作『THE GOSPEL』は、当然のことながら予想を裏切らずダルさが含まれるので取り敢えず安心する。音作りは如何にもDAWで組んで音圧上げて96kHz/24bitからダウンコンバートした今時の音だ。其処に在りし日のPIGの音を想起させるものは殆ど無い。あの独特の驚異的な打ち込みも、オケのサンプリングも見当たらない。そうであるにも拘わらずだ、此処十年の悪癖に終始したりはせず、前作『pigmata』の妙なキャッチーさにきちんと己のゴス成分を含めている点で大分素晴らしい。11章のゴシックな福音書をコンセプトとして制作している点も、これ迄様々なジャンルを取り込んできたレイモンドであっても実践していなかったアプローチで、その縛りに依る首尾一貫さは大変巧い効果を齎したと言っていい。古参としては比較的以前の作風である「Saturated」や「I'm So Wrong」に注目しがちだが、それらの他にもゴスとしてのPIGが遺憾無く発揮された「Toleration Or Truth」や「The Fly Upon The Pin」といった楽曲を大いに評価したい。「Viva Evil」(原曲は10年ぐらい前に放流されていたEdenとの共作デモ「Evil Does」)の今更感なワブルは、まあフレーズの一つだ、何も言うまい。囓り方は非常にPIGらしいとも言えるしね。

その後PIGはエヌ・エッシュと共に小規模ながら全米ツアーを行い、WAX TRAX/METROPOLIS愛好家勢は勿論、 近年復活したらしいスタッビング・ウェストワード(このバンドも末期はなあw)とよろしくやったりと、元インダストリアル界に於ては概ね好反応である様子が窺えて一寸安心した。ツアー限定の『REMIX&REPENT』、欲しかったなあ。

 

フル試聴はMETROPOLISのbandcampから。て言うか買え。

PIG   THE DIAMOND SINNERS

PIG   FOUND IN FILTH

シンセがarturiaのminibrute。

 

顧客が本来求めていたもの(

 

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