LIVE IN VIENNA / King Crimson
確か『The Collectors' King Crimson』以降キング・クリムゾン作品の日本盤には見向きもしていなかったんだが(理由は主に買う価値が無かったからに尽きる)、今回は敢えて購入。2015年日本公演各所からの抜粋が収録されたディスク3が日本盤にのみ付くと言われたら、価格上乗せ商法に唇の端を噛みながらも購入せざるを得ない。だが本来の海外盤をわざわざ日本盤としてプレスして売るのであればこれは正しい。穏当な付加価値だ。まあその分本当に割高なんだが。
2018.04追記:海外盤はリリース済。ディスク3にはアンコール扱いの「HEROES」「21st Century Schizoid Man」の他、コペンハーゲンでの「Fracture」、各公演での「Interlude」をTHRaKaTTaKスタイルで編集した「Schoenberg Softened His Hat」「Ahriman's Ceaseless Corruptions」「Spenta's Counter Claim」の3曲が収録されている。判りやすく言えばドラムレスのサウンドスケープだが、インプロの緊張感と現代音楽感、程良くまとまったハーモニーが大変に良く、随所に乗るコリンズのフルートが活きている。
KCCC特別版として一般リリースされた『Live in Toronto』、2015年高松公演をベースに映像付でリリースされた前回の『Radical Action (To Unseat the Hold of Monkey Mind)』に続き、2016年版のレポートのようなものだと捉えて差し支え無い。新たに追加されたレパートリーは大方の予想通り『Lizard』からの数曲で、「Dawn Song」と「Cirkus」が初収録。これはまあメル・コリンズの存在と、スティーヴン・ウィルソンの趣味に因る処が大きいだろう。前者のジャッコの歌声がゴードン・ハスケルに結構似ていて一寸驚いた。後者は元々古臭いので今の音で演奏しても結局古臭い儘で、懐メロ提供サービス感は拭えない。
また意外なところで80年代楽曲の「Indiscipline」も初。エイドリアン・ブリューのギターとあの語りをやるのは流石に無理だろうと思っていたが、大半の詞を抜き、ブリューのソロパートはコリンズになり、挙げ句後半はメロディーを足して対応していた。これはこれで非常に程良い改変になっていてアリだった。ブリューのような捻れたマルチプレイヤーをなぞるには難易度が高いであろう点を半端に再現させようとはせず、かと言って変貌させ過ぎない程度にジャッコ及び現行ラインアップ版としてキャリブレーションしている良い結果だと思った。あれはブリュー以外には不可能だと云う、才あるミュージシャンに対する敬意も何処となく感じられる。
ディスク3はオーディオダイアリーと銘打つだけあって本編ほど徹底したミックスでは無く、ドラムは三基あるにも拘らずセンター寄り。クオリティは当然良いので、恐らくどの音源も将来的にはDGMLiveで全セット公開されるものと思われる。
こちらでも既に触れたが、現行ラインアップの新機軸として挙げられたフロント配置のトリプルドラムは、これ迄の演奏からしても、三者のパフォーマンスを突き進めて楽曲に劇的な変化を与える目的にはならない。何せ既に三年も経過している。ビル・リーフリンが抜けたことに依りジェレミー・ステイシーが代役となり、結局また復帰して8人編成になっても(但し本作ではドラムが4セットになった訳では無く鍵盤担当。日本盤帯にはドラム4人編成と書いてあるがリーフリンはごく一部のパーカッションを除き殆ど叩いていない)、特にこれ以上増えたところで、ますます型通りの演奏をする他に術が無くなる筈だ。
矢張り問題の焦点は、その存在に因って現在のキング・クリムゾンの時代性を明確に旧態に定義してしまったメル・コリンズに尽きる。『THRAK』以降の重い楽曲にコリンズを加えるには大分無理がある。「VROOOM」「The ConstruKction Of Light」に至っては毎度聴くに堪えない。元々組み込まれていない楽器を楽曲構造の再検討無しに乗せる不自然さ、茶を濁すような奏法と無加工の音色が単純に合っていないからだ。一言で表現すると大変にダサい。楽曲と楽器の相性問題は慎重を期すものであって、90~00年代に70年代楽曲の殆どを演奏しなかったのと同様、1972年以前寄りになった現行ラインアップでは90~00年代の楽曲を積極的にレパートリーに加えるべきでは無かった。本作を通したこれらの点に於て、クリムゾンには常に付き物であった時代への対応と提案は著しく後退したと断言していい。
但し翻れば、長年ついてきたファンへの対応は最高だ。コリンズに因って過去の、特に『Lizard』『Islands』の楽曲を、きちんと当時の音を踏襲しつつ現行ラインアップに適うべく調整された現在の音で復活させられるようになった訳で、感慨深く傾聴する当時からのファンも少なくないだろう。これが数年続けられるフェアウェルツアーなのかもしれないという予感があればこそ尚更。ボーナスディスクのボーナストラックとして収録された「Islands」が最たるもので、1971年10月当時にもフリップのギターに置き換えられて数度演奏されたが(ブートレグで残されている限りでは2公演)、45年経過して漸く本来の姿に近い形で演奏された訳だ。キース・ティペットに及ばずとも、後半がフュージョン臭くとも、スツールの軋みが聞き取れようとも、これは称えたい。
尚、King Crimsonとして真に新しい呈示をしている点を挙げるなら、スタジオ盤をリリースしないこと、ライヴ盤を正としていることを推した方が寧ろ良いと考えている。現行編成で既に三年も経過しているのにスタジオ盤は一枚も出していない。オーディエンスからの一切のノイズを排した奇特な『Radical Action』がそうであったように、ライヴ盤でありながらスタジオ盤でもある立ち位置は非常にキング・クリムゾンらしく、且つ世間的に見ても現状目新しい在り方だと言えるだろう。
【超マニアック対談】大鷹俊一×髙嶋政宏がキング・クリムゾンを語りつくす
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