Sailors’ Tales / King Crimson

Sailors' Tales / King Crimson
『In The Wake Of Poseidon』『Lizard』『Islands』『Earthbound』の四枚を軸に、『Islands』ラインアップでの1971~1972年のライヴ音源をコンパイルした、King Crimsonの27枚組ボックスセット。『STARLESS』に並ぶ枚数、且つBDが4枚になったことにより収録音源が大幅に増えている。CDや既発の一般流通音源とは重複しない物が多数を占め、尚且つオフィシャルサイト・DGMLiveでも未公開の音源も幾つか含まれる為、CD枚数に換算すると実質的には50枚近い内容となる。

 

スタジオ盤に関しては40thシリーズ2枚組と同様の内容に加え、ボーナストラック部分を更に「Additional Material」「An Alternative Album Selection」として未公開の別テイクやデモや断片、トラックの一部を差し換えた音源、または現行編成でのライヴ音源を追加している。『Earthbound』は通常2枚組と同内容。本編については何れも既発なので特筆すべき事柄は無い。「Islands」で、ミスタッチ混じりと雖もあの美しかったピアノの一部をカットした点は未だに惜しまれるところ。

ライヴ音源の方は全てサウンドボード音源ではあるが、御存知の通り『Earthbound』同様、適当に記録したカセットテープが大半なので、あの雑な音質が嫌いな人には向いていない。翻ると、粗いことに因りサミットスタジオのようなスタジオライヴ音源よりも迫力があって好ましい、という人には大いに向いている。CDになっているミルウォーキー公演(1972.03.08)の一部は不完全で、BDの方に完全版が収録されていたりするので注意。
今回初出は以下。何れDGMLiveでも公開される筈なので、ライヴ音源だけを求めるのであれば年額100$を支払って1000Clubという信者向けサーヴィスに入会した方がお得だとは言える。

・Green's Playhouse, Glasgow 1971.05.28
・The Academy Of Music, New York 1972.02.12 Early Show
・The Academy Of Music, New York 1972.02.12 Late Show
・Summit Studios, Denver 1972.03.12 (new mix)
・Unidentified Show 1 1972
・Unidentified Show 2 1972

ライヴ音源の中で他と傾向が違った公演は、インディアナポリス公演(1972.03.11)とミルウォーキー公演(1972.03.08)。前者は持ち時間の都合からかトラックリストが少なく、この時期であれば「Formentera Lady」の後半をメル・コリンズ中心のインプロを展開してから「The Sailor's Tale」へ連結する様式だが、「Formentera Lady」本体を演奏せずにインプロ部分から始めている。またVCS3を通したドラムソロを後半に含む展開は1971年によくあったが、1972年USツアーではドラムソロは「Groon」に含まれるので変則的な演奏と言える。「The Sailor's Tale」への転換にしても冒頭からドラムが走るので、全体的な演奏の緊張感が高く感じられる。
ちなみに公演日不明音源No.2も同様の流れ(トラックは分割されていないが、ドラムソロ後にフリップ主体で「Groon/Earthbound」タイプのインプロが5分程度展開される)なので、日程的にはインディアナポリス公演とペオリア公演以前、且つ他のバンドとブッキングされていた3月2~4日の何処かではないかと推測される。No.1は3月の演奏様式の「The Letters」と、「21st Century Schizoid Man」での「Napalm Fire」の歌詞の節回しが2/27~3/10の期間と同じであることから、No.2と同様に3月2~4日の何処か。
後者は「21st Century Schizoid Man」でフリップのギターが鳴らず、一旦止めてメンバー紹介のMCで仕切り直しの上、再開される。オーディエンスの写真撮影に機嫌を損ねて楽屋へ引っ込むことこそあれ、機材トラブルで演奏を止める事態が余り発生しないバンドであるだけに、記録として珍しい内容だ。

また、記録、と言えば、メンバーオーディション及びリハーサル時のセッションを収めた「Blow No.1」~「Blow No.3」。テンポとコードを決めた上で各自音を絶やすこと無く、20分~最長45分間ひたすらにドライヴさせていくラフなトラックである。『Larks' Tongues In Aspic』所収の「Keep That One, Nick」のような楽曲制作の過程では無い為、徐々に完成されていく面白さは無いし、大部分のリズムやグルーヴはバラバラだが、随分と奇妙なポリリズムをしたジャズロックの即興を聴かせられているような気分になる。聴けるセッション音源としては充分に成立している。
ベースはボズ・バレルでは無くリック・ケンプや後のGongのキース・ベイリーかも知れないとのことだが、特定はされていない。またヴォーカリストオーディションは収録されていない為、ブライアン・フェリーやイアン・ウォーレスが歌ったかも知れないあれやこれも収録されてはいない。

 

もう一点、密かに面白く感じられたのが「Schizoid Men」再録。1972年USツアーのカセット音源がどれも同じコード且つ似たような歪み具合であることを逆手に利用し、「21st Century Schizoid Man」のインプロだけを延々とつなげたマニアックな代物である。曾て1971~1972年のコンパイル盤『Ladies Of The Road』のディスク2に収録されていた内容と変わらない……と云うことはつまり、47分から1分間のブランクあり、ブランク後は半端につなげた挙げ句未完という残念なトラックの儘でもある。しかし今回は初出音源が含まれている訳で、自分で+αをうまくつなげてEQ補正すればより良い形で完結させられる。一つのトラックとして成立した状態で通して聴くと、第二の『Earthbound』と捉えても差し支えない強烈なライヴ音源が出来上がるのでお勧めしたい。

▼元音源

0:00-6:30
Jacksonville, Florida 1972.02.26

6:30-9:43
Sound Track, Denver 1972.03.14

9:43-14:59
Orlando, Florida 1972.02.27

14:59-21:21
Wilmington 1972.02.11 Late Show (Earthbound)

21:21-25:18
Sound Track, Denver 1972.03.13

25:18-30:31
Cinderella Ballroom, Detroit 1972.02.18

30:31-33:51
The Armoury, Wilmington 1972.02.11 Early Show

33:51-38:52
Unidentified Show 2 1972

38:52-42:15
The Barn Peoria IL 1972.03.10

42:15-47:12
The Academy Of Music, New York 1972.02.12 Late Show

47:13-48:13
blank

48:13-52:28
The Academy Of Music, New York 1972.02.12 Early Show

52:28-53:58
Riverside Theatre, Milwaukee 1972.03.08

▼差替例

---------------------------------------------
0:00-2:20
Wilmington 1972.02.11 Late Show (Earthbound)

2:20-7:06
Jacksonville, Florida 1972.02.26
---------------------------------------------

7:06-10:19
Sound Track, Denver 1972.03.14

10:19-15:34
Orlando, Florida 1972.02.27

15:34-21:57
Wilmington 1972.02.11 Late Show (Earthbound)

21:57-25:54
Sound Track, Denver 1972.03.13

25:54-31:07
Cinderella Ballroom, Detroit 1972.02.18

31:07-34:25
The Armoury, Wilmington 1972.02.11 Early Show

34:25-39:27
Unidentified Show 2 1972

39:27-42:50
The Barn Peoria IL 1972.03.10

42:50-47:46
The Academy Of Music, New York 1972.02.12 Late Show

---------------------------------------------
47:46-52:02
The Academy Of Music, New York 1972.02.12 Early Show

52:02-57:55
Riverside Theatre, Milwaukee 1972.03.08

57:55-60:01
Fairgrounds Coliseum, Indianapolis 1972.03.11

60:01-63:41
Unidentified Show 1 1972

63:41-66:26
Wilmington 1972.02.11 Late Show (Earthbound)
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ボックスセット全体を通して改めて判るのは、イアン・ウォーレスがその後のビル・ブルーフォードとは異なる方向性で非常に才覚溢れるドラマーであった事実だ。メル・コリンズの管の表現に依存したソングライティング以上に影響を穿っていたと言っても良い。アグレッシヴな叩き方や延々と繰り広げられるドラムソロを挙げ、自己主張が強いとか無闇に叩き過ぎといった評価が往々にして付随するが(ソロが長いのはこの時代の風潮もあるからまあ仕方無いじゃないか)、逆に流動体の如く、グルーヴを組み立てる為に様々な叩き方を矢継ぎ早に織り込んでいると捉えた方が良い。上記の「Schizoid Men」、或いは1972年2月の「Groon」やペオリア公演でのインプロでも、テクニカルな演奏を控えがちなボズのベースを都度絶妙なタイミングで拾い上げては煽り、牽引し、表情豊かなグルーヴを積極的に作り出していることが判る。こうも頑丈な音楽たらしめたのは、ひとえにイアンのセッションドラマー気質に由来する音楽的な鋭敏さと先導力が礎になっているだろう。「King Crimson was an unfair opportunity for these exceptional players」というフリップの解釈、またはウォーレスが「these exceptional players was an unfair opportunity for King Crimson」と返した修辞の真意が、今回のボックスセットでの俯瞰を以てとてもよく解る気がする。

あと、当初ウォーレスはヴォーカリストとしてオーディションを受けに来たらしいが、いやお前はどう考えてもドラムだろ、と引き込んだフリップは実にまともな判断をしたと思った。そりゃそうだよねえ。

 

バンド史上最も美しい楽曲「Islands」。キース・ティペットのミスタッチを含むアルペジオがあってこそだったのだが、40周年リマスターにあたり残念ながらスポイルされてしまった。この音源では何故か残されているので、30周年リマスターを転用しているかも知れない。

1969年オリジナルラインアップの頃から演奏されていた「Pictures Of A City」、元々泥臭さのある曲だからか、こうして聴くとイアン・ウォーレス在籍時期の方がしっくりくる。サミットスタジオ音源。

後の「Larks' Tongues In Aspic Part I」「Lament」となった「A Peacemaking Stint Unrolls」。1971年8月のマーキー公演で既に演奏されている。

1971年の「Ladies Of The Road」は若干BPMが速いので引き締まっている。

1972年US公演で加わった「Groon」はイントロだけがそれであって、他はほぼ「Earthbound」「Peoria」タイプのジャム。後半は延々と続くドラムソロ。何れにしてもウォーレスのリードが光るし、メル・コリンズのブロウも冴える。

US公演に入ってからのボズの歌いっぷりがとても良い

 

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