昭和レアグルーヴ歌謡15選

主に自分が好きだからという理由だけで選んだ昭和レアグルーヴ歌謡。これでもなるべくレアめの曲、再発見の価値がある曲に絞っている(その割にはリファレンス代りにあちこちにリンクが張ってあるので全然絞り切れていない感は否定しない)。

 

 

隠密大作戦/水原弘
自分が日頃からオールタイム・ベストに挙げている最高の昭和レアグルーヴ歌謡。『弥次喜多隠密道中』メインテーマ。極めてクラシカルなギャグキャラたる弥次喜多を公儀の隠密にするという、当時にしてはなかなかぶっ飛んでいたと思しき設定の時代劇。ギターとタンバリンで16ビートを刻む合間を、独特のハネで絡め取るドラムのフィルインとベース(昔この曲をレビューしたサイトがあって「東芝のジャコパス」と賞賛してたのがうけた)、ハーモニーのド真ん中を完全に縫い切る小野崎孝輔編曲によるストリングスとホルンに加え、シンプルで熱い歌詞を歌い上げる水原弘の艷やか且つ伸びやかな声色。ブレスの形跡すら無し。ディエッサー不要。完璧。恐らく水原弘の音源の中でも一二を争う傑作だと思われる。歌謡ヴォーカリスト斯くあれかし。

 

ダイナマイトロック/梅宮辰夫
渡世人のような口上(棒読み)に始まり、ウェスタンの劇伴を意識したアレンジ、デュレーション短めのベース、ヒップホップのループかというぐらいズルズルとしたルーズなドラム(特にハイハット)、豪快に裏拍を叩くことでグルーヴの全体的な強度を否応無く締めるティンパニ、対して朴訥とした歌詞(棒読み)及びちっともダイナマイト感の無い歌唱(棒読み)等々、至るところが最高な訳ですよ。昭和映画コンピ『続・銀幕ロック』、『幻の名盤解放歌集~テイチク編・シューベルト物語』でCD化。
辰ちゃんと言えば「シンボルロック」だが、ロックと言いながらあれはブルースだ。橋幸夫の「恋のメキシカン・ロック」ぐらい違う。突っ込み所は其処では無いのだが。

 

ドリフ全員集合OP(北海盆唄)/ザ・ドリフターズ
荒井注在籍時の1972年。このナイス歌謡ファンクっぷり。オクターヴ上を多用する軽やかなベースが素晴らしい。あと合間で向かい合って踊る長さんとバンマス。70年代後半からはテンポアップしてしまい、この良い按配のグルーヴ感はスポイルされてしまう。恐らくバンマスが交代した影響だと思うけど。ドリフと言うかたかしまあきひこアレンジの特長は、恐らく本来ストリングスを想定したハーモニーをテナーサックスで代用しているところ(当時はBGMが生演奏の劇伴だったので或る程度の音を稼げるぐらいのストリングスセクションを入れる余裕が舞台スペース的にも予算的にも大体無い)。これやるだけで大分ドリフっぽくなる。
原曲が元々4拍子+3拍子であることに加え、荒井注のパートだけ半音下げてそのままエンディングまで突っ走る歌謡プログレ「ドリフのツーレロ節」も勧めたい。こちらのアレンジは川口真。

 

サイケな街/万里れい子
正統派サイケ歌謡。剰えシロフォンを入れているというだけでサイケ感3割増し(「山猫の唄」なんかもそう)。Bメロの展開に現代J-POPっぽさがあって実は時代を先走ってたのではないかと思うけどたぶん気の所為。この曲のみならず、国内サイケは結構クオリティ高いものが多くて、通称門脇覚のヒゲ占い・J-Girls「Yellow World」や、ビートニクの詩人アレン・ギンスバーグの『Howl』を無理矢理歌にした荒木一郎「僕は君と一緒にロックランドにいるのだ」辺りも参考とされたい。
『昭和レジデンス』という昭和レアグルーヴのコンピ盤(ジム・オルークが「楢山節考」をカヴァーしてたりする珍盤)に収録されていた、知子のロックという名の90年代後半のバンドによるカヴァー版も良いです。ビートルズと混ぜるな危険。

 

銭$ソング/白木みのる
伊集院光経由で知った筋も多いと思われるマンダム親子のこれ。幼い頃民謡で鍛えた天然カストラートの熱量の高い歌唱(赤塚不二夫作詞)を差し引いたとしても、ファズ噛ませたギターやドタドタしたドラムのフィル、太いベース、綺麗にまとまったブラスのアンサンブルなど相当秀逸なサイケ歌謡。マンダム繋がりという理由で、イントロの歌入り直前にだけ「男の世界」の引用に因りメジャーコードが差し込まれるナチュラル変態感もなかなか。

https://youtu.be/qhl_T_fBHfg

 

君は人のために死ねるか/杉良太郎
今更説明の必要も無い、踊らない方の『大捜査線』エンディング曲。レアグルーヴどころか3/4と4/4が複雑に入り交じり、且つ歌と台詞までもが入り交じる歌謡プログレ。元々杉良楽曲は杉様の作詞優先なので、「新五捕物帳」や「男よ」など唐突に変拍子が挟まるケースが意外とあったりする訳だが、特にこの曲に関しては神懸かり的。「あいつの名は」「そいつの名は」「俺の名前は」で、結局お前かい、しかもクローン物のSF観か、などと一考させられる展開が待っているところもまた神。大概考えない気はするが。

 

とん平のヘイ・ユウ・ブルース/左とん平
最近逝去された左とん平による、昔からクラブ界隈では有名なハイクオリティ音ネタ。人生の悲哀を語り歌うことこそブルースの真髄であり、語りが真面目なのかネタなのか判然とし難い中で絶叫を以てフェードアウトしていく可笑しみとうら悲しさの同居は正にそれだとしか言いようが無い。

 

銀蝶渡り鳥/梶芽衣子
『女囚さそり』とか見てると梶芽衣子ってつくづく当時に似つかわしくないレベルの美人だよなという所感は扨措き、如何にもタランティーノが愛好してそうな女任侠映画の昭和歌謡ブルース。梶芽衣子主演映画の主題歌はもっとBPM低めの歌謡曲臭い曲調で占められる中、本作は例外的に速めでグルーヴ感も高い。刺さるようなファズ。そしてこの歌唱の巧さ。

 

『俺にさわると危ないぜ』OP/小林旭
映像含めて非常にモッズ感あるナイスなOPなんだけど曲名不明。元々モタる歌唱をする小林旭にとってはBPMが速過ぎたのか、歌が殊更遅れて大体合ってない点も含めて非常に昭和感があってよろしい。映画自体も金かけてしっかり作ってる感がある。『Black Tight Killers』という名で海外輸出されてそれなりに知名度があったらしい。

 

あなたに負けたの/小山ルミ
通称地獄谷からの咆哮・海道はじめ「スナッキーで踊ろう」のバックダンサーの一人。短期間の芸能活動の中で出した数枚のシングルの内、最もグルーヴィー且つ原盤のジャケが相当攻めてる曲。ピアノが兎に角ファンキーで良い。力石徹のテーマに並ぶ弾きっぷり。

 

アイ・アイ・アイ/杉本エマ
活動時期、短期間の芸能活動、ハーフモデルという点では小山ルミと同じタイプの杉本エマ。曾てはレアグルーヴ中のレア盤としてプレミア価格が付いたりもしてたシングル。フレンチポップ+ボサノヴァなので、今聴くともうなんか普通にStereolab若しくはECMに所属する前(これと同時期)のエグベルト・ジスモンチだなあという印象だけど、天才小林亜星作曲。

 

愛の絶唱/太子乱童
デビュー作にして唯一の作品にして怪作。尾崎紀世彦のように音程声量共に申し分無いダイナミックなヴォーカルで魅了する系統かと思わせておいて、サビで突如スケベ臭いダミ声に変貌する予想外声帯マジック。この露骨な二面性が例えば勝彩也のような情感溢れる歌謡スケベ声とは一線を画す特殊さを帯びている、とは言えないだろうか。コサキンリスナーであった者共であれば東尾のヘゲ声といった表現は充分伝わるとして、youtubeコメントに於ける「キャプテン・ビーフハートの通名」に一票投じたい。
楽曲やアレンジについては極めて正統派な歌謡曲でありつつ、サビで雪崩込むグルーヴが味わい深く、またドラムでは全体的にタムを多用している点がなかなか珍しい。ゴルジェのエピックに位置すると言っても良い。ごめん言い過ぎた。

 

Discoお富さん/Ebony Webb
レアグルーヴ界ではとても有名、お富さんをディスコサウンドでカヴァーした国内企画物。合間にちょこちょこ挟まるブレイク(イントロ)が終止形で無い故に延々続行出来てしまうのがある意味鬼。他の80年代ディスコ系だと、ラジオ体操第一を強引にアレンジした「ディスコ体操ナンバー・ワン」なんかも馬鹿馬鹿しくも極めて真摯な演奏が楽しめる。

 

永久運動/THE MOPS
シンフォニックな展開すら感じさせる国内サイケロック。鈴木ヒロミツと言うと面白枠のタレント程度にしか認識してなかったので、最初これ聴いて、こんな格好良いバンドを当時やってたの知らなかったですほんとすみませんという気持になった。いやまあ作曲したのは星勝(後年主に井上陽水のアレンジャーとして活躍した人)だけど。他にはビートルズの「I Want To Hold Your Hand」の原形を完全に無くしたカヴァーが凄かったり、ツェッペリンの「Whole Lotta Love」の間奏を祭囃子(もしくはチンドン屋)の演奏として解釈した「御意見無用 (いいじゃないか) 」が面白かったり。ほんとすみません。

 

Singer Lady/しばたはつみ
聴いて即判る通り、若かりし頃の大野雄二作曲。レアグルーヴ代表の一つ。演奏といい合間に入るブレイクといい完全にプロミュージシャンの仕業なファンクなので、グルーヴ噴き出ていて当り前だろ感はあるけど。あとさりげにベースの一部でミニモーグをユニゾンさせている都合、双方浮かないような音作りを徹底しているところが素晴らしい。エンジニア誰だか知らないけどナイスワーク。