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The Quartette Trés Bien

Jeter Thompson (piano)
Richard Simmons (bass)
Albert St. James (drums)
Percy James (percussion)

の、セントルイスの素晴らしき四人衆。以前記述した Unlocked Recordings on INTERNET ARCHIVE: Afro Grooves というエントリーの中で、何故これが有名にならなかったのかと本気で首を傾げたクァルテット・トレ・ビアンがその後気になって仕方無くなってしまった。一度そうなると、実物に仔細に触れ、事実だろうが所感だろうが自分の言葉でつらつら言及出来るようになる迄納得しないのが悪い癖である。そういう訳で一寸調べてみたところ、一応リイシューはされていてそれなりに入手出来そうだと判った。
1962~1968年の間にThe Quartette Trés Bien名義でリリースされた11枚の内、現状CD化されている(残念ながら入手出来なかった『Kilimanjaro』以外の)3枚を確保してみた。音源配信があるなら聴くだけならそちらで充分なのではあるが、国内盤であれば原盤ジャケットや日本語ライナーノーツから労せずして詳細を得られるだろうという魂胆に拠り、わざわざCD版を探した顛末だ。結論としては独自情報はそんなに無かったが。しかし大体どれも、当時どれだけ音源が入手しにくく且つ知られてもいなかったか、如何にCD化が長年の念願であったか、といった涙ぐましい内容は共通しており、読んでるこちらも思わず妙な連帯感を持たずには居られなくなってしまった。

 

Boss Trés Bien (1964)

元々は地元のインディーレーベルから『Favorite Things』としてリリースされた内容+αを、DECCAが買い取ってリコンパイルしたのがこの『Boss Trés Bien』との話だった。初めて聴いたのが『"in" motion』だったので割と素で勘違いしていたが、デビュー時点から既にフォックストロット(当時としてはステップの多いアメリカンスタイルのソーシャルダンス)を軸にしたクラブジャズ・カルテットとしての位置付けだったらしい。道理でどんな曲調だろうと嫋やかさなど微塵も見せないフォルテ全開だった訳だ。逆に言えば本来しんみりするようなバラード曲でもくそみたいにアタックが強く、エクスプレッションで情感を描こうという機微は殆ど無い。勿論本作ではそうした表現が必須となる楽曲は一切収録されていない。尚且つグリッサンド上等。この驚きの潔さ。エディ・ロックジョー・デイヴィスのくそ強いテナーサックスと素手喧嘩よろしく張り合えそうな勢いだ。
indigo jam unitのような現代クラブジャズとも全く遜色の無い曲調と熱量を持つ表題曲「Boss Trés Bien」、オルガンファンクに置き換えても面白そうな「Rhodesian Chant」、ラ・マルセイエーズやフレール・ジャックをアドリブで挟んだりする遊び心やAメロをオクターヴユニゾンだけで弾くセンスの良さが光る(勿論BPMは爆上げだ)「I Love Paris」、至極真当なジャズのイディオムでの作曲・演奏も問題無しだと主張してそうな「Always On Saturday」が聴き所。デビュー作でこの技量とアイデアの盛り込み方は当時かなりの完成度ではなかっただろうか、と思わせられる。DECCAが権利を買い取ったのも確かによく判る。
ハマースタイン二世の「Lover, Come Back To Me」やマンシーニの「Days Of Wine And Roses」、バーンスタインの「Tonight」といった当時のミュージカル/映画音楽スタンダードからの選曲というキャッチーさもあってか、当時一応それなりには売れたらしい。

 

Bully! (1966)

挙げた3枚の中では最も元気溌剌な作品。ボンゴとコンガの容赦無い連打に合わせたであろう相変わらずな原曲超えの全力疾走「Caravan」や、本作唯一のオリジナルである表題曲「Bully!」がその最たるものだが、後者は良い按配の所でフェードアウトしてしまっている点に不完全燃焼感は拭えない。やたらアグレッシヴなのはこれらだけで、他はジャズのBPMとしては穏当だし、キャノンボール・アダレイの演奏が代表的な「Work Song」なんかは幾らでも独自解釈出来そうなものなのに意外なぐらい堅実だったりもする。本作が唯一Atranticレーベルからのリリースである点に、期間や予算といった諸々の事情があったのかも知れない。
それでも、冒頭にも書いた通り、どういう訳かアルバム全体を通して底抜けに御機嫌な印象がある。楽曲それ自体は勿論パーカッションがアフロジャズの方針へは向いていないにも拘らずだ。この妙な明るさは、パーカッションの効果と言うよりはスネアの抜けが強調されたミックスの所為ではないかという気がする。勿論ピアノ演奏に於けるアタックのくそ強さもあるにはあるが。
アーネスト・ゴールド「Theme From Exodus(栄光への脱出)」を選んだセンスに拍手を送りたい。

 

"in" motion (1966)

挙げた3枚の中では最も仲睦まじさが伝わる作品(メンバー同士の合いの手が随所に飛び交う的な面で)。
冒頭で触れたエントリーでも既に書いた通り、「For Heaven's Sake」の美麗さと「Saint Sylvester」の野蛮さの両極には全盛期のバド・パウエルの匂いすら感じてしまった。勿論それだけでなく、元のミュージカルの精神を汲み取ったかの様にラディカル且つ瀟洒なジャズワルツに仕立てた「It Ain't Necessarily So」(例えばオスカー・ピーターソンやマイルスのそれと比べてみてもいい)、明らかにフォックストロットでも脚が追いつかないであろうBPMのアフロジャズパートを挟んでおきながら、メランコリックなジャズワルツの皮を被る「Brother Percy」の捻くれ方だって存分な賞賛に値する。

特筆して、ジーター・トンプソン作曲の「Bad People」が兎に角素晴らしい。

  • Aパート:弓で弾かれるダブルベースと抑揚の利いたシンバルロールで彩られる美しい主題
  • Bパート:五拍子のシークエンスパターンのようなベースリフ、その上に乗るプリペアードピアノ(恐らくは弦に直接物を挟まずに指か何かを当てて弾いていると思われる)と内部奏法を盛り込んだバリエーション
  • Cパート:同じく主題のバリエーションをベーシックな4ビートスウィングで演奏
  • Dパート:Aパートの主題に戻りコーダ

という、当時のクラブジャズらしからぬ技術を盛り込んだ怒涛の四部構成、5分15秒。ご丁寧に各曲のジャンルまで表記しているジャケ裏のトラックリストでは、FoxtrotでもJazz Waltzでも無く、ただInstrumentalとだけ書かれている。この時代らしからぬプログレ/現代音楽的アイデアが詰まっている傑作。調律師から嫌われるとかジャズピアニストの楽器への敬意といった諸般の事由(そうした点や素人には絶対踊らせない五拍子で言えば曲調に反して確かにBad Peopleであろう)は扠措き、プリペアードと内部奏法までもジャズでやっている例を寡聞にして知らない。国内でこの曲のこれに着目した例も今日に至る迄皆無だろう。誉めようと思えば幾らでも誉めちぎれるし、何ならこの楽曲、ひいてはこのアルバムを総スルーした当時の人間達を鼻で笑って差し上げても良いぐらいだ。
しかし何故この傑作がApple MusicやSpotifyはおろかデジタル配信で皆無なのだ。この作品にこれ以上の不遇を与え続ける必要が何処にあると言うのだ。版権を持っているユニヴァーサルはもう一寸ちゃんとしろ。今回これが一番言いたい。

 

2021.03現在、一切リイシューされていない作品はINTERNET ARCHIVEにお世話になろう。