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hide, posthumous 20 years

20回忌とのことで、日本の神奈川県横須賀市からいらっしゃいました松本秀人さんです、張り切ってどうぞ。

 

最初に聴いた時、ああ才覚に溢れた人なのだろうなと思った「Love Replica」。元々はサーベルタイガー時代に作っていたデモが原形らしい。メタルにここ迄高度化されたゴシックとワルツの持ち込みは当時存在しなかっただろうと思われる。大型のゴミ箱をハンマーで叩いてサンプリングした音をリズムとして使うという、発想力としても当時から異質だった。

 

ソロでのシングルカット3枚目「DICE」。「Love Replica」を作曲してしまうような人のソロ作が出るというので発売日に学校さぼって買いに行ったことを思い出した。メタル出身のギタリストでありながらギターとヴォーカル以外は打ち込みとした思い切りの良い作りが、結果的にその後のメジャーシーンのロックの音楽制作に於ける先駆となった。
カップリング曲の「Eyes Love You (Mad Translator Mix)」は当時国産ハウスの第一人者であった寺田創一(個人的には専らイコールomodakaだと思ってるけど)リミックス。

 

何故かL7のメンバーがかなり適当にフリをしている「DOUBT」。当時NINやMINISTRYの志向からインダストリアルメタルの呼称でインダストリアルが俄に復権した背景もあり(『HIDE YOUR FACE』がリリースされたのは1994年2月、NINの『the downward spiral』は同年3月)、そちらの傾向が強い。ということで影響としてはストレートに『broken』からだろうと思われる。

 

明確なオープニングがあり最後にリプライズがある(あくまでエンディングでは無い)、音楽的にこのように始まりこのような過程を経て最後のトラックへ到達する、などといった、アルバム一枚に対する表現の飽和に対して一貫性を持たせるようなコンセプトと世界観の切り出し方が初期から徹底していたことを具体的に示しているエントリー曲「Psychommunity」。

 

1stの中では一番好きな「HONEY BLADE」。ロックでありメタルであり、ナチュラルトーンの気怠さがありワウのエグさがあり、ニューロマンティックの低域と扇情的なグロウルがある。テリー・ボジオのドラムにしても流石としか言いようが無い。

 

萌え袖が過ぎるhide。ファッションは基本的にゴスなのだけど男臭く無く女装的でも無く、派手だが無理矢理さは無く、何処かかわいい兄ちゃん、という独特のフォトジェニックな像や立ち居振舞いは確かにV系の祖に相応しい。見てくれだけで言えば幾らでも居るが、ギタリストとしての実力や作編曲セルフプロデュースのセンスまで併せ持つ個人となると追随する者は今昔殆ど居ない状況ではなかろうか。昔の見た目押しと現在のスラップギターの腕前が合わさったMIYAVIだったら匹敵しただろうか。
「TELL ME」はこの映像の様子やCM起用、ストレートなメジャー進行に反してとても中二病の心を抉る内容で、当時の自分も大分溜飲が下がる思いをした。1曲の中に他ジャンルを挿入するハイブリッドな曲作りはX時代からもやっていたが、これを機に本格的にあの手この手で複雑に盛り込まれていくことになる。ジャンルや音楽的なアプローチを示す言葉としては元々形骸であり(日本国内で言えば当初から本当に内実を伴わなかった)陳腐化もしてしまったが、ミクスチャーとしても祖であったと言わざるを得ない。

 

「Psychommunity」同様にアルバムのコンセプトを提示する導入インスト「PSYENCE」。戦後の諜報映画BGM的な素のビッグバンドと、それを上モノのサンプリングとして加工したブレイクビーツを交互に出し分ける構成。タイトル通りでもあり、また音楽の新旧や演奏と打ち込みといった幾つかの相対的な軸のハイブリッドを1stよりも過剰化した内容であることを端的に表現している。

 

ドラムを度外視してまで、ノイズゲートでバッサリ切ったような思い切ったギターの存在感と厚さに拘ったアルバム収録版「MISERY」。合間合間で16分のカッティングを多用するスピード感のあるリフと相俟ってとても耳触りが良い。ヴォーカリストとしてもこなれて完成した声質になり、こちらも聴いていて心地良い。

 

当時流行っていたビッグビートに寄せられている為、シンプルなギターリフの組み合わせで出来ている「POSE」。しかし根本的に手弾きで通す故に重量感も巧い具合に併存する。後にzilchの楽曲としてプラガ・カーンがリミックスしたverは逆輸入的にビッグビートと化していて面白かった。

 

2ndになって情報量過剰になったのはサウンドのみならず歌詞の面でも指摘し得る。寓話化した題材を軸に、元々中二病に罹患する(または抜け切らない)世代には大体よく深めに刺さる書きっぷりではあったが、憂世を斜に構えた特別な第三者とか人生の悲劇の中心といった立場を表現するものでは無く、個人としての根っこは別に大したものでは無いことを一応披瀝しておくがまあ精々気張れや、という或る程度の距離感を保つスタンスが特色だろう。

 

1993年頃から既にライヴでは演奏されていた「SCARS」。プログレ並の展開量の面では「Sadistic Desire」と同様だしX JAPANに於けるhideの役割に沿った曲だったが、メタルを一人脱却してのこの変貌振りには聴いた当時驚いた。確かにソロではこの曲調は浮いてしまうであろう一方、しかしバンドでは最早hideの表現志向を許容しきれないのではないかと感じたぐらいには個人の色彩が強い。ドラムにしても凡そ過去に叩かないパターンであり(スネアを叩く回数の多さ故にかなり高めのチューニングにしている点も含む)相当引っ張られている感がある。
尤も仮にhideが存命だったとしても、あくまで自分でやりたいことはソロでやり、バンドに対してはサウンド面のフィクサーまたは「よしきのおくさん」として裏方に回る方針に徹しただろうという気はする。

 

「Drain」のhide版、zilch「What's Up Mr. Jones?」。デヴィッド・ボウイ(ボウイのファミリーネームはジョーンズ)を題材にするのがしっくり来るような楽曲では無いが、zilchとして作曲者当人の楽曲になることに意義がある。Bm-D-G-Cコード押しのリフのドライヴ感が良い。生ドラムを元々想定していないだけに、ヴォーカルを1オクターヴ下げただけできちんとhideの曲になるし、上げるとX JAPANの曲になる、という違和感の無さも秀逸。

 

矢張りバンド構成でのhide楽曲の到達点であろうと思わされる「Pink Spider」。シンプルだがグルーヴのあるギターリフ、端的にドラマティックな展開、ロックに対する打ち込みの馴染ませ方、アイロニカルな寓話、hide fujikoのユーモア。夭逝に因り『Ja, Zoo』が本当の完成品に至らなかったことが今尚惜しまれる。

 

「ever free」は「Misery」「ROCKET DIVE」と同様、底抜けに明るいメジャー進行でちょっと尖った10代女子に訴求する歌シリーズ、と言えば簡単に片付いてしまうが、このレベルで無理無く出来の良いメジャー進行のロックを作ることはそもそも難易度が高いのだ。

 

古くなり本当に「Miscast」となってしまったあのカッチリとしたシンコペーションの曲をこのような(当時の)今の自分仕様にリビルド(未完成であったので最終的には稲田和彦アレンジだが)したことにより、普遍性の高いロックとして延命したことが面白い。同様のアレンジとしては、同じくX JAPANでのhideの部屋を原形とする「Celebration」がある。

 

何度も改変されてきた「DOUBT」。これが時代の節々でどのようにリミックスされたのだろうかと想像するのは楽しいが、ワブル山盛りのEDMアレンジの可能性が真っ当に断たれた点と、未だにこれが現役対応可能だという点に於て、夭折の才人として半ば神話化された現在に一役買っている節があり安堵もする。

 

 

 

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