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Rollins Band, or, Henry Rollins: throat

曾て自分が一〇代から二〇代に差し掛かる頃合、海外ではロックの新しい旗印としてオルタナティヴが席巻していた。
当時は音楽を構築するに際しての知性を求め、インダストリアルのように打ち込みと演奏を織り交ぜ、練りに練り上げた精緻なスタジオワークの産物を何よりも好んでいたが故、純然たるロックバンドとしてのオルタナティヴには然して興味が無かった。全体的にカッチリとまとまっていたHelmetは好きだったが、パール・ジャムは何処が良いのか全く判らなかったし(今も判らん)、メルヴィンズはおろか実はニルヴァーナですら殆ど真面目に聴いてなかった。今では考えられないが3ピースバンドの音楽など以ての外だった。

そんな中で、何故かRollins Bandだけはよく聴いていた。当時の自分の嗜好の範疇であったインダストリアルでも何でも無く凡そ真逆で、実にフィジカルで、粗野で、ハードコアで、歌にメロディとしての音程など殆ど無い、序でに言うと見た目も筋肉質で厳つい風体の強面で、スマートさからは程遠い。会場を問わずライヴでは必ず黒いボクサーパンツ一枚姿で、恰も格闘技であるかの様に毎度全力で臨んでいた。かたや当時俳優としても活動していたが、ウィリアム・ギブスンの短編『Johnny Mnemonic(記憶屋ジョニー)』を映画化した『JM』では、役柄はと言えば主役のキアヌ・リーヴスを救い、敵役のドルフ・ラングレンと揉み合いの末敗れる反体制側の闇医者という正反対なものだった。極端だがミスマッチにはならず、振り幅の広い人物像のように自分には映った。
でまあ、切掛けはその『JM』のサントラになる。KMFDM、Fear Factory、Helmet、Cop Shoot Cop、Stabbing Westwardなど当時の若手オルタナ/インダストリアル勢で固めた中で、ロリンズはRollins Bandとして「I See Through」を提供していた。6/4拍子(正確には4+2拍子)にサビBPM変更6/8拍子という、随分手の込んだプログレ風な音楽を作っていたことで更に興味を持ち、その後『Come In And Burn』を何度も繰り返し聴き込んでしまう羽目になった。寧ろこれだったからこそ良かったのかも知れない。「Starve」や「All I Want」は一見如何にもな感じだが、リフとドラムのグルーヴが多分にファンクであり、USオルタナとしては他では余り聴けないタイプの曲だ。「During A City」に至ってはAメロがファンクでそれ以外がハードコアというキメラのような構成になっている。
そして、このヘンリー・ロリンズのヴォーカルだ。外しているようで外していないギリギリを縫いつつ、歌とも語りともつかないラインを飄々と泳ぎつつ、筋肉質なシャウトを繰り出す。全体的な印象に反して軽妙。Black Flag時代の無指向な程の若く野蛮な衝動を抑えた、肉感的且つ円熟味のある自由で闊達な表現振りが何とも素晴らしい。

ロリンズはバンド活動や俳優活動の他、ユーモアに満ちたスポークン・ワードの活動も並行し、また自身の出版社も経営している、非常に知性と行動力に溢れたアーティストだった。後になって知ったところだ。作られる音楽とその歴史とは紐解いていけばアーティスト自身の知性と好奇心の程度に結び付く訳で、ロリンズ・バンドの音楽が表現的に単なるUSパンクやUSオルタナティヴ一括りではいかないのもその辺りを考えれば至極当然であろう。

その後ストレートなハードロックに舵を切った『Get Some Go Again』はライヴ映えもする痛快な内容だったが、セールスがそこまで振るわず、DreamWorks(レーベルの非協力的な対応がロリンズには余程気に入らなかったらしく、自前レーベルから出した『Come In And Burn: Sessions』のライナーノーツでは「DroneWorks」「DreadWorks」と書いていた)を去った。
音楽的には『Get Some Go Again』の延長線上にある翌年の『Nice』以降、ロリンズ・バンドとしての活動は殆ど止まってしまった。ライヴは2006年に一度行なったきりで、新譜は18年間出ていない。2015年のとあるインタビューで、ロリンズは「古い曲を演奏する気は無い、自分にとっては既に終わった戦いであり、そいつをやり直すことに探求を感じない。過去に生きるには人生は短く、まだやるべきことは山積みだ」といった発言を残している。実際、現在のロリンズは専らスポークン・ワードのライヴやTV出演が中心で、忌避するかのように自身の音楽には触れていない。過去作品のリマスター盤すら出ておらず、自身のサイトで通販していた未発表テイク集やセッショントラック集(とは言うがラフな内容では無く、アルバムのクオリティと変わらないかそれ以上のオルタネート・テイク集だ)もApple MusicやamazonMP3での配信に絞り、それ以上の動きを起こす様子はまるで無い。

年齢のことも考慮すると尚更だが、今後のバンド活動については余り期待すべきでないのかも知れない。しかし、何となく気が向いた程度の動機は有り得るだろうし、ロックでしか表現し難い物事がロリンズの今後の人生で皆無とも言えないだろう。再び「SEARCH & DESTROY」と誇らしげに彫られた背中と、「Henry Rollins: Throat」のクレジットを見られる日が来ることを淡く期待し続けている。

 

 

END OF SILENCE DEMOS
アルバム『THE END OF SILENCE』の本格的なレコーディング直前に録音したまま放置されていたプリプロを、当時のサウンドエンジニアが発掘してミックスし直したもの。こんなに良かったとは予想してなかったとロリンズ自身も認めるクオリティで、実際古い正規アルバムよりもこちらを聴いた方が良い。デモと言うよりはオーバーダブ有のスタジオライヴと云った趣で、「Low Self Opinion」の最初の一音から大変テンションが高い。

WEIGHT
最もハードコア感が際立っていた4作目。バンドとしては最も高い瞬間風速を記録したアルバムで「Disconnect」「Civilized」「Volume 4」などヘヴィな佳曲揃いだが、流石に今聴くと低域や音圧に難ありなのでリマスターしてほしい。

WEIGHTING
アルバム『WEIGHT』のオルタネートテイク+ライヴ音源集。上述の「I See Through」はこれと『JM』のサントラにしか収録されていない。サビを聴いていると兎に角脚がつりそうになる曲(個人的な空耳)。ライヴ音源はフリージャズのチャールズ・ガイルとのセッション。

COME IN AND BURN SESSIONS
アルバム『COME IN AND BURN』+アウトテイク+シングル収録曲。レーベルの毛色に対して内省的だった為か余り売れなかったらしいが(自己言及しているようにそれ以前からも内省的な表現が軸なのだが)、初期編成でのロリンズ・バンドとしてはこれが作品的にも表現的にも頂点だった。ひたすらに低域が厚めのミックスになっているのも良い。既に挙げた曲の他、深めのディレイでギターと咆哮が折り重なる「Threshold」や、如何にもUSオルタナなリフが炸裂する「Disappearing Act」もお勧め。

GET SOME GO AGAIN SESSIONS
アルバム『GET SOME GO AGAIN』+アウトテイク集『Yellow Blues』+ライヴ音源2曲。表題曲や「Monster」「Thinking Cap」など、前作とは打って変わって痛快なぐらいストレートなロックの集合体。重さよりも力強さに全振りしたかのような本編に対して、実は『Yellow Blues』がこれ迄のヘヴィでスローな既定路線だったと判る、裏表が合体したような作品。

NICE
ロリンズ・バンド事実上最後のアルバム(2001年)。前作と同じくHenry Rollins and Mother Superiorでの編成で、且つ前作よりもファンクやブルースの色彩も強い。「Up For It」が特に顕著だが、ドラムはタイト且つジャストに決まるドラミングなので、スネアを重視するシム・ケインとは違った硬質且つ明快なグルーヴが楽しめる。ベースリフが最高な「Your Number Is One」の他、往年のレッド・ツェッペリンの爆発力を彷彿とさせるブルーズ「Hello」が良い。アルバムジャケットに対する思想は「I Want So Much More」に詰まっている。内省的な世界観はすっかり消え去り、至って力強く挑発的な訴求が並ぶ。

THE NICER SHADE OF RED
アルバム『NICE』のアウトテイク。内4曲は『NICE』日本盤にボーナストラックとして収録。これも『Yellow Blues』のようにこちらの方がヘヴィでスローでブルージー。一方で「10X」「Always The Same」のような、何故本編から外したのか疑問符が浮かぶような佳曲も多い。

『Only Way To Know For Sure』
事実上最後の公式ライヴ音源。2002年リリースなので『Do It』~『NICE』迄のレパートリーを余す所無く網羅している。始終このテンションなので正直暑苦しい感は否めないが、最盛期のパワフルなロリンズを体感するにはうってつけ。ベスト盤的な趣もある。

Ghost Rider
番外編。80年代から好んでカヴァーしていた、Suicideの「Ghost Rider」。オリジナルのシンプルで速めのBPMのシークエンスパターンを遅く重いアレンジに変えている。『THE END OF SILENCE』UK再発版2枚組(入手困難)にフル・ヴァージョン、映画『The Crow』サントラにショート・ヴァージョン収録。

「Jackass」の「オフロードでタトゥーを彫ろう」という、ネタとしてはブレないが彫る方は大いにブレまくる企画でハマーを転がすロリンズ。

持ち前の筋肉を活かしてワニと戦うロリンズ。何やってんだ。

 

 

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