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July, 2020 – December, 2020 (monthly EPs) / acimorph9

前説含めて長くなった為、7~12月の下半期の分については分割した。1~6月の上半期はこちらを参照されたい。

上半期分の方でも触れたが、このマンスリーEPシリーズは数年前から活性化しているクラフトビール界隈に対して、ヴァイナルのdig及びDJプレイとの類似性をacimorph9は掲げている。
私は下戸につきアルコール飲料系全般は味わう行為すらままならず、味覚からの言語化が不可能である為、そうした面でこのシリーズの半分以上は体感的な理解を得られていないと言える。体感的に音楽を受け入れるにしてもクラブミュージックと切り離せない酩酊の感覚すら知らない訳で、そうなると1/3程も真の理解に近付けていない虞れがある。例えばブルワリーの国内外の差や地方による気候との絡み、ラガーかエールか、どのようなホップか、モルトのローストがどの程度か、果実やハーブが加わっているならどのようなブレンドにしたか、どのような味覚と香りがどんなタイミングで感覚器へ伝わってくるか、等々、味覚と酩酊の具合を鑑みての記述が出来たらもっとダイレクトに面白く伝えられるだろうと忸怩たる思いが募る。だが、致し方あるまい、取って付けた薀蓄と音の在り方に対する個人的解釈を以て私は引き続き記述する。

 

 

 

7月、下半期一発目。4つ打ちにしてノリの主軸をキックへ安易に依存させたりせず、2~4拍の何処かしらをシンコペーションさせる奇妙な引っ掛け方がacimorph9の特徴的なリズムであるが、これをより目立たせているのが今回の肝であろう。このリズムの引っ掛かりはドラムだけに留まらず、VCFの開閉は勿論他パートのノートやコードの配置にもその役割を委譲させた複合的なリズムパート構造として極めて真摯に組み立てられている。その為、聴き手は流されるまま受動的にサウンドを浴びせられることなく、自分にとって最も心地良い能動的なリズムを探る面白味を知ることが出来る。
例えば最初の「indigo skies」ではキックのシンコペーションをスネアが拾い上げることによって安定化させていたり、コードの譜割(1.5拍目)と同期することで、パート間を跨るリズムパターンを違和感無く構築させている。
Dave Smith Instruments TEMPESTで詰将棋の如くリズムを突き詰めた「lager guzzler」ではリズムの根幹をハイハットの裏拍の方に一任させ、ロービットPCM的な質感を持つキックの緩いディケイと、その裏で支える低いファットなベースシークエンス(偶数拍のデュレーションだけ短く切ってアクセントを加えている)との絡みによって電子音楽的なグルーヴの在り方を提示している。但し、しっかり低域の出るヘッドフォンやスピーカー前提ではある。
タイトルからも連想し得る「salty lemon white ale」は何と言ってもハウス的な爽快感が良い。これもキックのシンコペーションの箇所では、オクターヴ上げで軽快さの維持を図っているベースで更に高いノートを合わせ、このトラックのリズムに於ける不可欠且つ継続的なアクセントとして着実に機能させていることが判る。
 

8月。毎月ふんだんにハードウェアシンセを盛り込んでいる中、今回は価格帯と使い方の贅沢さの両面でVermona DRM1 mk3が圧倒的な存在感を放つ。「Triple-I-Rye」は、私はインダストリアルと捉えて聴いた。ベース代りのドローンは最後まで1音で通しており、途中で左右にパニングはするが、その箇所ではLFOを振り切ってざらつかせたようなスウィープを被せてしっかり低域を固めている。上モノも徹底してSEの風情であるし、各パートの空間系エフェクトも地下ボイラールームの反響といった趣が強く出ていて良い。
珍しくシンプル且つキャッチーな「Blackcherry Hard Seltzer」「Summer Sunset Cider」はKORG Gadgetだけで作られている。積極的にペンタトニックを用いているのが一因とも言えるが、現代のテクノアーティストがWARPレーベル系で屡々見られるテクノポップを解釈したサウンドに対して更にSynthwaveを上乗せした解釈のようでとても愉快な印象である。曲名も併せて鑑みると、非クラフトブルワリー生産品的な成り立ちをある種の諧謔として潜めている可能性はある。
「2020 Track 17」はアシッドの本道に戻るかのようなラディカルなパターンが特徴で、リズムパターンのBPMに対してTB-03側を1/2にしていることでスライド独特の延びを気持良く強調させている。

 


9月。ベースの動きに幾分特徴のあるトラックが多い印象がある。元々ヘッドフォンで没入する向きにも適したミキシングではあるが、アンビエンス・音響的な面を捉えるのが今回は最適解であるように感じられる。
「Hazy Amber IPA」は一曲目から随分BPMが遅くフラットなコード循環ではあるが、クリックの高域が強調された(恰もプラスティック管のような)硬質なキックが独特の弾力を与え、またこれまで余り目立って使ってなかったランダムフィルターやグリッチ的な音色を随所に配置したりと、それぞれの音程の外郭から楽曲の強度を与える作りになっている。
「Vanilla Eisbock」では4月以来再び、長周期のピッチLFOでチューニングを平均律から外したコードを垂れ流している。如何にもJU-06らしい厚みも手伝ってか、茫洋とした心地良さがいつまでも続く。明確に音程を持つ上モノはNTS-1による機械的なシークエンスパターンと、Electribe2であろうオルガンのワンショットしかないというクリーンさ。
かたや「Oyster Saison」は「Vanilla Eisbock」と同一のハードウェアセットを使用していながら、暗澹さとBPMの低さからか、何処となくジャーマンエレクトロニクスの系譜を感じさせる。それは想像力の乏しさの所為だと言われたら否定は出来ないが。

 

10月。曲名からも判る通り、いつになく明朗なトラックが並ぶ。KORG Gadget特有の如何にもなソフトシンセといった風情のきらびやかな音色を躊躇いなく堂々と使い熟している「Cider & Octopus Dumplings」は極めて明るく、タイトルからも容易に察せられるカジュアルさがある。「Toriaezu Pils」も同様にカジュアルで、シンプルに気持良くテックハウスのノリを持ってきているが、ハイハットの裏拍と1度-5度のコードで4つ打ち感が保たれていて、キックとベースはその補填になっている。その為3拍目がシンコペーションであっても寧ろその崩しが程良いグルーヴの伸びを与えるという、取り敢えずと言うにはしれっと重層的な構築が成されている。
「Mad Freq Saison」は例外的にエクスペリメンタルな要素を持つトラックで、ロシア製のSOMA laboratory LYRA-8を主体としている。オルガンやFM音源のような倍音加算方式の発音原理で、且つ複雑なモジュレーション処理を載せた音源である為、このような金属的・機械的なドローンを得意とする。ここではElektron OctaTrackで固めたリズムに対するポリリズムも兼ねた音色を生成して鳴らしている。
「Bass Bitter Lager」も1曲目と同様に直截的な命名で、トラック内でも最も前面に出したベースを、それも片方のオシレーターピッチをわざと目立つように外している辺りから、成程下面発酵だなあ、苦味の強度なのだなあ、といった所感が得られたりもする。

 

11月。他の月とは違い実験的な性質の強いEP。モジュラーシンセで組んだかのような金属的なドローンやS&Hは全てSOMA laboratory LYRA-8で、これをメインにトラックが組み立てられている。「Special Batch Strong Saison」のようなノイズドローンは予想の範疇ではあるが、「Special Batch Spice Ale」や「Special Batch Hazy Lager」のように、ドローン単体で出す複雑な周波数帯による音圧に頼らない端正な音色コントロールを行った楽曲作りにも対応させているのが今回の面白さだろう。ノイズシンセサイザーはその特質故に扱い所が難しく、ノイズドローンが簡単に出せてしまうが故にそのリアルタイムな操作に呑まれやすい(つまり演奏者一人だけが盛り上がってしまい、受け手は特に面白くも何ともない)状況を導出しがちだが、倍音の質感をトラック毎に分け、スライサー(BOSS SL-20)と組み合わせることで、極めて意識的に楽曲構築の為の音色/シークエンスの一部として掌握していることがよく判る。特に「Special Batch Hazy Lager」に於て、遂にはノイズドローンから脱却して「音楽的な音色」に変化して出口へ向かう、という結果がエクスペリメンタルで素晴らしいと思った。
ノイズの反動として、それを聴いた後に普通の音楽を耳にすると「ああ音楽だなあ」という実に間の抜けた感想を抱いたりする訳だが、最後の「2020 Track 20」に若干その効果があり(若干、と書いたのは前の曲が所謂ノイズというジャンルに分類される完全ノイズ楽曲では無いからだ)、何故かリラックスした気持で受け入れてしまう不思議さが味わえる。尤も、だから普通の音楽だということでは無く、前3曲との対比としてこちらではエピックなデトロイトテクノの風情を完璧に作り上げているのが策士と言えよう。特に303(TB-03)のパターンに音楽的な中毒性があって大変気分が良くなる。

 

締めとなる12月。引き続きSOMA laboratory LYRA-8とSL-20を全面的に使用しているが、OctaTrackとPioneer RMX-500の使い方の限りでは、今回はあくまで音源の一部として使おうという試みのように感じられる。その為か、「SMaSH IPA (Citra)」と「WaitingForMyBeer」の何れもがインダストリアルに近い雰囲気に彩られている。但し、だからと言ってそのような音作りで占められていたりする筈も無く、LYRA-8のノイズシンセたり得るモジュレーションディレイやディストーションといったセクションを通しての表現を意図的に抑えた音色を巧く作り、織り込んでいるのが判るだろう。
最終トラックの「Test Batch 20L」に至ってはLYRA-8とKORG volca kickを組み合わせる非常にストイックな構成にはなっていたりするが、volca kickの音域の広さとVCO EGのカーヴを活かしたキック兼ベースパートで下支えした上で、LYRA-8でざらつきを加えたドローンをコード的に重ねることで音楽的な方針に見事舵を切っている。
11月の「2020 Track 20」と地続きである「2020 Track 21」は、何と言っても2:29~のディレイフィードバックと808(TR-08)によるタム乱れ打ちの展開がとにかく気持良く、デトロイトテクノ独特のラディカルな雰囲気を存分に味わえる。

 


上半期、下半期のまとめ及びDJユース例としても秀逸な、マンスリーEPだけを使用したMixトラック。DJミックスを長大な1曲として捉えられる機会って殆ど無いんだが(特にアンセムとして扱われるような既知の有名なトラックが複数あった場合、現場で楽しむ価値に相反して聴く価値は下がる)、リズムの密度の高さだとか粒度の細かさが伴っているとプログレ的な観点で真面目に相対してしまう、ということでしっかり聴ける。

 

EPとは言え、毎月様々な試みに取り組みながらリリースし、更に上記のようなセルフミックスをも提示した一年間の偉大な仕事に対して惜しみない称賛を贈りたい。事ある毎に、件のハイコンテクストな5バイトの単語を用いつつ、全く以て素晴らしいトラック集だといつまでも胸を張って私は言い続けるだろう。
2021年度は新たなEPシリーズが展開されている。11月~12月に於けるLYRA-8の多用から予感させる通り、モジュラーシンセ主体によるアプローチが主軸となる。クラブミュージックの体裁を取りながら(現代音楽で言う)電子音楽的な要素をどのように取り入れていくか、また新たな一年間の楽しみが約束されている。

 

 

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