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MONEY SHOT / Puscifer

オルタナティヴでは稀代のヴォーカリストと断言しても良いメイナード・ジェームズ・キーナン、如何せんその能力が所属バンドに於ける余りの寡作振り、或いは当人自身の面白ペルソナに因って激しく相殺されてしまい、結局「新作リリースがGuns N' Roses乃至X JAPANぐらいアテにならないTOOLのヴォーカリスト」にしか落ち着いていないのでは感が些かある。
TOOLに振り回されず(しかし今年2019年に無事新作が出た)、ビリー・ハワーデルと或る程度自由に活動が出来る筈だったa perfect circleも寡作になってしまい(それでも2018年に新作は出た)、残るプライヴェートなソロプロジェクトたるPusciferも大凡3~4年周期とそれなりに寡作ではあるが、まだ辛うじてそれなりのペースは維持している。葡萄畑とワインセラーの経営にかまけている訳では無い。しかしPuscifer自体の認知度がそもそも低いが故、結局普段何をしてるか判らない面白ヴォーカリストぐらいにしか捉えられていないのでは感は矢張り拭い去れない。

ことPusciferに関しては1st『V is for Vagina』に始まる数々のEP/シングルのド直球な下品さやジャケの安っぽさが大いなる災いとなって軽んじられている節がある訳だが、2nd『Conditions Of My Parole』を経ての3rd『Money Shot』の真摯さはもっとまともに俎上に載せられて然るべきものだ。相変わらずの巫山戯たジャケであるにも拘わらず、アーティストとしてのメイナードがTOOL以来持つ詩的な表現者としての立場がこれ以上無いぐらいに発揮された内容であり、楽器としての声に託された優美さと強さは増してa perfect circle以上の質感を醸し出している。TOOLからあの独特の呪術的な圧を欧州的牧歌的抒情に差し替えてシンプル且つクリーンにした、とでも表現すれば多少なりとも伝わるだろうか。楽曲としても難解な構造にはなっていない為、河のせせらぎのように聴けるので際立つのだ、それらが。その静謐さにTOOLが『Fear Inoculum』を無事リリースする迄の13年間の補完を求めるのも良いだろうし、旋律を生み出すメイナードの才覚がTOOLに依存しなくても独立して成り立つ無二の代物だと解釈するのも咀嚼の正しい一形式であろう。そこまでちゃんとやるならアートワークもちゃんとしろ、と言いたくなるのも勿論ありだ。と言うか自分が本人に言いたい。

 

表題曲「Money Shot」。本来TOOLファン含めて主に期待されているのは正にこれだと思われるが、このような曲調の楽曲はアルバムでは唯一という騙しっぷり。

NINの「And All That Could Have Been」に勝るとも劣らない、静謐且つ重く沈んだ「Smoke and Mirrors」。ベース、ギター、トレモロのようなディレイを被せたマンドリン、ほんの僅かなパッドのみ。嘯き続ける指導者と蛇の脱皮の対比。

曾てあった人生の彩りへの郷愁と先に逝った者に対する自らの緩やかな死への宣言を描く「Autumn」。

永遠の淵に佇み自然の移ろいの尊厳を目の当たりにする、とはグランドキャニオンを一望した所感かも知れない「Grand Canyon」。

ライヴもこれだけ見た目がふざけている。しかもそこそこの規模のフェスでこれだ。ステージにリングを用意してプロレスのパフォーマンスまで繰り広げている。ショウとしては断然面白いのだが、楽曲に関してはフェスに似付かわしくないぐらいのこの真摯さ。

Pusciferはメイナードのソロプロジェクトではあるが、同じくヴォーカルを担当するシンガー・ソングライターのカリーナ・ラウンドと、サウンドエンジニア兼プロデューサーのマット・ミッチェルの三名がプロダクトの要となっている。マット・ミッチェルは余り耳馴染みは無いが、TOOLやa perfect circle絡みだけで無く、ProjeKct Three(King Crimson)のミックス、SONOIO(アレッサンドロ・コルティーニ)『Fine』のミックスや『Blue』の楽曲リミックス、NINE INCH NAILSの2008年ツアーのエンジニアなど、その界隈ではキャリアのある人材だ。同じメイナード独特の旋律が前提であってもa perfect circleのビリー・ハワーデルとはまた違うトラックに仕上がっていて、且つマンドリンやバンジョーといった撥弦楽器で清冽さを引き出しているのは主にマット・ミッチェルの手腕かと思われる。
ゲストミュージシャンもジョン・セオドアを始め、ジョシュ・ユースティス、現a perfect circleドラマーのジェフ・フリードルといった豪華な顔触れが揃っているのでクオリティ面でも申し分無い。ちなみに他のアルバムでは、Rage Against The Machine/Prophets Of Rageのリズム隊2名やアレッサンドロも参加している。
Puscifer『MONEY SHOT』を、アートワークに気後れせず聴くべきだ。そしてメイナードはもうちょっと作品の身嗜みに気を付けるべきだ。面白感性なのはもう充分過ぎる程に伝わっているので。

 

 

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