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Grundstück / Einstürzende Neubauten

昨年に『Grundstück』が一般リリースされていたと今頃になって知り、慌てて購入した。

『Grundstück』は元々2000年代にノイバウテンがサポーターシステムと銘打ち、出資者に限定してアルバムを届ける企画の一環で2005年にリリースされたアルバムだ。第一弾は『Perpetuum Mobile』の原型となる『Supporters' Album #1』、第二弾がこの『Grundstück』にあたる。
コアなファンをターゲットとしている点で規模は大きくはないものの、今で言うクラウドファンディングを既に自前で行っていた慧眼は勿論、それが2018年になって一般流通版として再リリースされたことも驚くべき対応である。サポーター限定の作品を解禁した事実が、では無く、この作品を改めて出した意義が、の点に於ての話だ。と言うのも、ノイバウテンのバンド史では最も大掛かりな二種類の「楽器」を使用した唯一のスタジオ盤だからだ。

その一つは、出資したサポーター自身だ。出資することに依って対象者にのみ作品が頒布されるだけで無く、バンドの音源収録にも参加出来ることも特典の一つだった。それはレコーディングやライヴのバックステージ見学に留まらずパフォーマーとしても参加が出来る意味合いであり、楽曲のコーラス、提供された楽器での共演が実際に行われた。本編では「The Social Choir」と名付けられた選抜100名のサポーターのコーラスが重なり合う「GS1」「Vox Populi」で、ライヴに於てはDVDでも観られる通り、前2曲の他「Was Ist Ist」「Palast der Republik」でのコーラス、デスクや鉄板、空き缶、シンバルを一斉に連打する「50 Tables」でどのようにフィーチャーされていたかが判る。メタルパーカッションを軸とするノイバウテンの音楽性だからこそ実現可能だった参加型コンテンツとも言えるだろう。

そしてもう一つの楽器は、建物それ自体である。それは共和国宮殿(Palast der Republik)と呼ばれていた。ベルリンに存在した社会主義の象徴の一つであった建築物だ。社会主義で共和制となるとコンストラクティヴィズム(構成主義)的な示威を想起させるが、実態としては政治利用のみならず演劇やコンサート、レストランやバーなどで解放されており、民衆と文化の集約的な用途が主であったらしい。宮殿は三〇年程利用された後、老朽化とアスベスト汚染問題に因って2003年に取り壊しが正式決定、2006年に解体着手されることになった。更地にした上での新築計画が現在進められてはいるが、過去の栄華の象徴であったオリジナルの建物は既に現存していない。
──この共和国宮殿が、本作の最大の軸となっている。表題曲「Grundstück」では建物自体の音響効果からメタルパーカッションの装置としてまでしっかり使用されており、2004年に数度行われたGrundstück公演でも会場は一貫して共和国宮殿で行われていた。その様子を収めた映像としては、本作DVDの他、2007年にCD/DVDでそれぞれリリースされた『Palast der Republik』とそのまま冠された一般流通盤があり、どちらも楽器としての建物を窺い知ることが出来る。宮殿の鉄骨を楽器とする文化的表現の切り口、またサポーターで組織された「The Social Choir」が共和国宮殿で「Vox Populi(民衆の声)」を上げる、という一寸した暗喩を裏に持つインスタレーションとして捉えると、単に大掛かりな楽器を使いたい目的だけで無かったことは見えてくるだろう。

『Grundstück』というタイトル自体は、『Perpetuum Mobile』最後に収録された、実に懐古的なストリングスで彩られた曲からその儘取られている。永久機関、共和制で掲げられた政治と文化の理想、土地区画、解体される共和国宮殿。我々はその他多数である/世界は細切れにされ過ぎた/それは最早古臭い、といった散文的な歌詞(ブリクサの書く歌詞は大体そんな感じだと判る人には伝われ)と併せ、Einstürzende Neubautenの名とも遠からず呼応する意図が心憎い。

 

 

それぞれトレモロ、サスティンを効かせた2つのギタートラックが印象的な「Grundstück: November / Sie lächelt」。表題と関係するかどうかは不明だが、共和国宮殿で11月に関わる出来事としては、2003年11月に取り壊しが正式決定したことが挙げられる。

「50 Tables」

『Palast Der Repblik』での「Vox Populi」

初期の傑作『Zeichnungen des Patienten O.T.』から、「Neun Arme」が「Neun Arme / Die Nacht」として拡張された。

『Perpetuum Mobile』の方の「Grundstück」。観衆の一部から笑いが漏れているが、ハッケの様子からして恐らくカットされたハプニングがあったと思われる。

2007年リリース『Alles Wieder Offen』に収録されていた「Nagorny Karabach」はこの頃既に存在していた

 

 

 

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