19972016 / BOOM BOOM SATELLITES
リマスター版『19972007』と、『TO THE LOVELESS』以降の四作品から26曲抜粋した『20082016』、1997~2016年迄のライヴドキュメンタリー1hのBDを含むボックスセット。旧版『19972007』を始め全作品は所持しているし、未発表音源の収録も無いのでスルーしても良かったんだけど、何となく香典代りに買った。
サテライツはデビュー当時から既に頭一つ抜きん出る音の良さと太さを誇っていたので(サンレコの記事まとめ『BOOM BOOM SATELLITES 1997-2016 全アルバム・プロダクション・ストーリー』を読むと、自己完結型アーティストとしてエンジニア本職並のスキルを研鑽していく過程というか変態ぶりが手に取るように判って面白い)、リマスターは特に施さなくても多少揃える程度でも充分なのではないか、更に最初の『19972007』の時点で良くなっていたので益々不要ではないか、等という先入観があった。それは大枠として正しいとは言えるものの、ベスト盤だからこそとの方針で1からマスタリングし直すほど丁寧に手を入れられた為、結果そうではなかったのが認識を改めるべき点だった。但し幾分マニアックな観点からではあるが。
初期のトラックに関しては大分現在に近い上下左右のレンジに変わっていてなかなか良かった。特に「Scatterin' Monkey」はベースが左右に広げられていて、よりビートを含む低域が強固になった印象を受ける。マスター発掘時に違うマスターの方が良かった等と云う発言があるので恐らく『OUT LOUD』とは別物のマスターを使ったのではないかと想像。『ON』や『EXPOSED』辺りの楽曲になると流石に其処迄変わりは無いが、「INTERGALACTIC」のように全体的なダイナミズムよりも空間を拡げることに注視したリマスタリングもある。
『20082016』の方は、最新にして最後である冒頭の「LAY OUR HANDS ON ME」に合わせたとのことなので、全体的に高域の強調が目立つ。個人的に2~8kHz近辺が弱かった『TO THE LOVELESS』のその点が程良く解決されていたのがプラス。一番印象が違ったのは「HELTER SKELTER」で、前後20秒ノーカットでコーラスをフロントに寄せたミックスに変わっていた(何となくNINの「EVERYDAY IS EXACTLY THE SAME」のアルバム版とUK版Radio Editの違いを彷彿とさせる変え方だった)。全体を通してもヴォーカルを一歩表へ出している節があり、この時期でのこの総括の意図が判るようになっていた。
サテライツがバンドであったことは疑いようも無いが、ロックバンドかと言えばそうでもなかったような気がする。特にギターが所謂ギターソロやなんとか奏法といった演奏技術的なアプローチが一切無く、コード弾きやシンプルなリフ弾き以外のことはしてない点から言えばあくまで音色や表現としての一部という傾向が非常に強かった。ではエレクトロニックなユニットかと言えば、初期のR&S時代なんかはテクノ/ブレイクビーツが主軸のレーベルであるのに、サンプラーとターンテーブルに囓り付くことをせず意気揚々とSTEINBERGERのベースを弾き倒すという、寧ろ後期とは逆の意味で結構なバンドっぷりだった。『FULL OF ELEVATING PLEASURES』以降に於ても、楽曲的にはテクノ的なフロアの盛り上げ方をするがテクノでは無く、勿論EBMのような在り方でも無く、では構成的に近いニューレイヴかと言えばああいったエレクトロニック・パンクな荒さとは正反対な端正さを守っているし、そもそも先駆過ぎてそのシーンとは全く離れた処で活動していたのが実際だった。
そうしたどちらの立場とも言えない、ロック的でありテクノ的でもあるハイブリッドな佇いであり、尚且つそのスタイルで長年活動し得るだけの支持を獲得し続けられたバンドは、顧みるだに国内外問わず稀有であったと感歎する。主にサテライツを担当している(Twitterのプロフ参照)中野雅之が個人でもBOOM BOOM SATELLITESとして活動すると決めたようなので、今後どんなプロセスを経ていくか引き続き追っていきたいところ。
この時代のライヴを音源化orDVD化してほしい