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HEAVEN & EARTH / King Crimson

キング・クリムゾンの年代別ボックスセットでは実質最後となる、1997~2003年のダブル・デュオ期の総括『HEAVEN & EARTH』。長くなりそうな『The ReconstruKction Of Light』に関しては別途書くことにして、此処ではセットの内容に対して言及する。大枠としては、

- 『The ReconstruKction Of Light』
- 『The Power To Believe』
- 『LEVEL FIVE』
- 『Happy With What You Have To Be Happy With(Shoganai)』
- 『Heavy ConstruKction』+DVD『Eyes Wide Open』のDisc2音源部分の再構成
- 『EleKtriK』
- KCCC『Live in New Haven 2003』
- 既発/DGMLiveで配信しているProjeKctシリーズ音源
- BootlegTVアーカイヴ

で構成されている。既発の音源、例えば『The ConstruKction Of Light』や『Heavy ConstruKction』も勿論BDにはその儘収録されている。残念ながら今回は既発のDVD作品そのものは含まれていない。その代りとして、未発表であったBootlegTV用の映像アーカイヴでBDを一枚分使っている。

BD2枚分・約50GBの容量に収録された音源・動画に関しては、CD換算で凡そ100枚という非常に膨大な内容であり、これだけでも平均小売価格を遥かに上回る価値がある。ProjeKctシリーズは一般流通品からDGMLive配信音源まで網羅した上で、他所のレーベルからリリースされたRieflin, Fripp, Gunn『The Repercussion Of Angelic Behaviour』やBPM&M『XtraKcts & ArtifaKcts』まで追加している。更に、2006年に数回の活動しか行われなかった為、あまり存在が知られていないProjeKct Sixの全公演分も含まれる。
非常にバラエティ豊かな内容である反面、ProjeKctシリーズでほぼ占められているとも言える。この方針に関しては恐らく、DGMLiveでは大して売れないコンテンツだから全音源まとめ売りしても支障は無い、という邪推でほぼ当たりだろう。それはそれでファンとしてはまとめて触れる機会が出来た訳なので大変に有難い。しかし他に資料的価値の高い収録すべき音源はあり、そちらを収録すべきだったのではないかといった疑問は当然残る。例えば、2001年6月14日公演では「Potato Pie」の原型「Krimson Blue」、「Facts Of Life」の原型「Response To Stimuli」、「Happy With What You Have To Be Happy With」の含まれた「Heavy ConstruKction」がある。2001年11月には「Larks I Level Five」という、「Larks' Tongues In Aspic Part One」と「Level Five」のリフを使った小品がある。何れもこの時期特有の楽曲なので、収録する価値は充分にあったと思われる。『Mr. Stormy's Monday Selections』として公開されたこの時期の幾つかのスタジオリハーサル音源も然り、「Level Six」と題されたデモなど、面白いものは沢山ある。

勿論、ライヴ仕様として構成変更があった楽曲については、既発音源の再収録によって大体網羅されている。ダブルデュオ向けにアレンジが一新された「Cage」、歌詞が酸鼻だとの理由からヴォーカルが削除された「Coda: I Have a Dream」、サビのリフから始まるように変更された「Happy With What You Have To Be Happy With」、中間部でリフが抜けてドラムソロに変わった「Level Five」(これはギャヴィン・ハリスンが加入して以降の変更)がその例となる。ボウイのカヴァー「HEROES」もある。
『The Power To Believe』に収録された楽曲は、80年代のように、総じて伸び代を敢えて抑制したかのように固定化された演奏スタイルを前提としている。どの楽曲もライヴを通して練り上げられてはいるが、スタジオ盤から劇的な変化を遂げた程のものは無い。演奏時期毎に変化していく様を追うような楽しみよりは、単純に完成度を楽しむよう向けられていると捉えて良い。転じて、故のこのProjeKctシリーズの物量だと好意的に捉えてもまあ良いのかという印象はある。自分なりのベストテイクを編集する愉しみが与えられた訳でもある。

 

ProjeKctからキング・クリムゾン本体の楽曲へ至ったリフやアイデアは確かに多い。

- The Deception Of The Thrush → The Power To Believe III
- Heavy ConstruKction → Level Five、Happy With What You Have To Be Happy With
- ProjeKction (Masque 9) → Into The Flying Pan
- Six O'clock → Larks' Tongues In Aspic Part IV(1997年Nashville Rehearsalsでも原型あり)
- Demolition → The World's My Oyster Soup Kitchen Floor Wax Museum

何れもProjeKct Three/Four/Xの産物だ。ProjeKct One/Sixは言う迄も無く、ProjeKct Twoからの結実は無かったりする。その上、全公演を網羅したP2に関しては、キング・クリムゾン基準に於ての音楽的な質が良いかと言えばそうでもない。勿論私見だが。膨大な資料、膨大なネタ帳、或いは当初のフリップの目的通り『The ConstruKction Of Light』制作の為のリハーサルといった位置付けで捉えるのが妥当だと考えている。即興力の公開鍛錬をしながらエレクトリックな要素をどう取り入れるかの基礎作り程度であったことは、他のProjeKctとは違う惑星探査的なコンセプトや、結果的に具体的な結実となったのがP3とP4だった事実からも裏付けられる。当時のエイドリアン・ブリューの志向に触発されたであろうギターシンセやRoland TD-20(V-Drums)の多用や、音色の選ばなさ加減故の散らかり具合はセッション特有のものだ。

また、これは当時から自分が抱いている印象だが(故に異論は幾らでも認める)、インプロヴァイズを軸とするProjeKctシリーズで最も演奏面の変化に寄与していなかったのは他ならぬフリップであった。サウンドスケープ寄りだとしっかり他のメンバーに合わせたパッドを乗せる一方、MIDIを通さないギターでは必ずしも演奏や音色が合っているとは言い難かった。マステロットのドラムループとレヴィンまたはガンの手堅いベースリフに対して、あのズルズルとしたサスティンに依存したプレイをひたすら乗せるのは、正直なところ今時の楽曲に合うスタイルやイディオムに関する不勉強の露呈であり、センスに欠けたやり方と言っても良い。そうしたある種のセオリーを飛び越えた結果として真新しいものに変貌すれば良かったのだが、残念ながら其処迄の発明的な音楽には至らなかった。
音楽がギタリストを演奏させる、とフリップはよく言及していた。それは単に裏を返せば当人の手癖への依存でもあるだろう。手癖あってこその個性でありキング・クリムゾンの特色が保たれるのも事実ではあるが、他方そのポリシー故にリズム隊の無駄遣いになっていた事実もまたある。
そうなってしまった一因は、そのV-Drumをトリガーとした打ち込みループの過剰供給であろうとも言える。或いは、ループに引っ張られ過ぎた、とでも言おうか。
純然たるバンド形態でのインプロに於てはビル・ブルーフォード&トニー・レヴィン(或いはジョン・ウェットン)のドラスティックな牽引に依存し、サウンドスケープやFrippertronicsに於ては独壇場でもありそうした変化を必要としていない。人力プレイ以上に打ち込みループでリズムパターンが賄われるP3/P4に関しては後者の様式の範疇に含まれるが、ギタープレイに関しては前者が要される。少なくともクリムゾンの文脈であれば。その上一定のパターンが垂れ流され、且つワンコード主体であるケースが多い。この矛盾が結果としてフリップを凡庸な処へ押し遣ったのではないか、と汲んで差し上げることは可能だ。
フリップに関してこうした背景があった想定で、アルバム『The ConstruKction Of Light』と『The Power To Believe』収録曲とライヴのインプロとの乖離、あの平板なリフ主体の「Larks' Tongues In Aspic: Part IV」が作られたと考えると、腑に落ちることも多いのではなかろうか。ProjeKctでの反動があって本編で堅牢な楽曲が幾つも仕上がった点では、結果に成功へと導かれて良かったね、という話に落ち着く訳で、元来じっくり譜面に書いて作るタイプのフリップとしては、インスピレーションの素となるインプロの幅を出来るだけ確保したかった故のProjeKctであり、スタジオ盤制作への転用はそこそこうまくいったので自分の奏法に関しては扠措いた、と受け取って差し上げるのが良心だろうとは思える。
渾然一体とした打ち込みループと人力プレイを過剰な迄に押し出したP4の様式に関しては、旧来のクリムゾンらしからぬ姿であれどもこれを取り込めていたのなら、と深く考えさせられる。プログレ本道で此処迄やったバンドが他に存在しないだけに、尚更。

 

ボックスセットの話に戻そう。21枚目のBD(The ProjeKcts Vol.I)は初期ロットの段階から問題があり、収録されている一部の音源のピッチが半音高くなっている。ボックスセット向けに製造されたBDは追加生産が難しい為、ワンタイムのダウンロードコードとの引換で救済措置を取る、と公式にアナウンスされている。購入者は所有の証拠となるレシートまたは購入履歴のスクリーンショットと、自身が所有していることが判るようにボックスセットを撮影して(メアドや購入履歴番号を手書きした付箋でも一緒に貼って写しておくと良いだろう)添付の上、 heavenandearth@dgmhq.com に無料クーポンコードを寄越せとメールすれば良い。DGMHQの確認が済めば、無料クーポンコードとインストラクションのpdfが返信されてくる。ダウンロードはDGMLiveで音源の購入と同じフローで行う。全体の容量は10ファイル分・約10GBあるが、帯域が広めに取られている節があるのと、最大50回リトライ可能な設定になっている。クーポンコードは数桁の数字のようなので、セキュリティ面での疑問が残る。受け取り次第早急に引き換えてしまうと良い。

 

 

何故か本作には収録されなかった「The ConstruKction Of Light (complete)」。completeと謳ってはいるものの、正式版ではカットされていた終盤のメロディーライン及び歌詞が未完成ながら含まれている。

2000年ロンドン公演、「HEROES」。何故この年に突然オリジナルギタリストがこの曲のカヴァーをやり始めたのかは不明だが、少なくともシンプルなコード進行や緩いBPMにダブルデュオの(特にマステロットの)スタイルは好くフィットしていたと言える。

2000年ワルシャワ公演の一部。BootlegTVアーカイヴ。

2000年イタリア・コネリアノ公演の一部。BootlegTVアーカイヴ。

2000年ドイツ・ミュンヘン公演の一部。BootlegTVアーカイヴ。

2000年ドイツ・オッフェンバッハ公演の一部。BootlegTVアーカイヴ。

ワンコードのシンプルなリフで徐々にクレッシェンドしていく「Dangerous Curves」。発表当時はこれの後に「Level Five」が続いた為、「The Talking Drum」~「Larks' Tongues In Aspic Part Two」の現代版解釈などと受け取られた。

「Eyes Wide Open」

2004年ラインアップほぼ唯一となった楽曲「Form No.1」。あるリフや短いフレーズを用意しておいて、それに対してメンバーがどのようにインプロを重ねていくか、という試みがこれだけで終わってしまったのは惜しいところ。とは言え時代背景やパーソネルを見る限りでは伸び代が少ないように思えたので、活動しなかったのは結果的に正解だったのかもしれない。

実質的にビル・ブルーフォード最後のクリムゾンでの演奏となったProjeKct One。ダブルトリオの制約から開放されたブルーフォードが存分に堪能出来る。主にベースリフから曲調が決定されている節があり、ああレヴィンはレヴィンなのだなあ、ウェットンのようなメロディセンスは持ち込まないのだなあ、という至極当り前な感想を抱いた。

軒並ださい楽曲が続く中でも数少ないクリムゾンらしい、ProjeKct Two「Space Groove II」。ライヴでもこれをベースにした「Live Groove」「Sus-tayn-Z」がセットリストに必ず組まれた。

ProjeKct X「The Business Of Pleasure」。Xは満を持してのPシリーズ総集編的な立ち位置であったものの、スタジオセッション切り貼り感が払拭出来ない故の半端さが残ってしまった。

 

 

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